第59話 レイの初陣
燃え跡が目立つ、とある村。
その中心に二人の妖怪が睨み合っていた。
妖怪化した百貴と、屍食鬼を率いてこの村を襲撃した吸血鬼の一人である。
一人は朱天家百貴。
百六十センチほどの身長に、逞しい体格。
肩程ある緋色の髪を風に靡かせ、髪と同じ色の鋭い眼を敵に向ける。
対する吸血鬼は一見すれば普通の人間。
こんな熱い中、厚手のコートを羽織り、顔を隠せる程の帽子を被っている。
「テメエ、よくも俺らの仕事の邪魔しやがって! 坊ちゃんだからこっちから手を出さなかったのによぉ!!」
「うっさい。俺の目の前でやられたら、やるしかないだろ?」
「そうか。邪魔するならお前も俺の敵だ。……殺す!」
吸血鬼の男が腕を上げる。
瞬間、後ろに控えていた屍食鬼が一気に襲い掛かって来た。
身体能力は人間と大きく変わらないが、数が多い。負けることはないが、時間を喰うことになるだろう……。
「おっと、ここは俺に任せろや!」
突如、空中から白い影が降って来た。
中央から突っ込んで屍食鬼を吹っ飛ばす白い影。
影は暴れて周囲の屍食鬼を更にぶっ飛ばす事で、その姿を見せた。
「レイ!?」
影の正体は、妖怪化したレイだった。
少年から青年の姿へと変貌し、頭部には山羊のような角。
彼は蝙蝠のような背中の翼を羽ばたかせて空を飛び、両手に炎を灯す。
「おうモモ! ここは俺に任せてお前は先に行け!」
「い、いいのか? お前は本来部外者だぞ?」
「何言うてんねん。言い出しっぺは俺やで? なら最後までやるのは当たり前やろ。それに……」
ニコニコとした笑顔を一変。
突然、氷のように冷たい表情で炎を吸血鬼に浴びせた。
「ぎゃああああああああああ!!!」
「こいつらはハグレ。俺ら一族の裏切りモンや。なら、吸血鬼の王子の俺が片付けるのが筋やろ」
吸血鬼を焼き、他の屍食鬼共は怪力によって潰す。
ただの屍食鬼なら、吸血鬼のような不死性も再生力もないので、別に特殊な能力を使わずとも殺せる。
「せやからここは俺に任せてお前は行け。ここでなんもせんかったら、後で俺が笑い者になるねん」
「……ありがとう!」
百貴は背を向けて走り去っていった。
鬼の身体能力によって加速した百貴は、すぐに見えない程に遠ざかっていく。
「クソ……ボンボンが舐めやがって!」
「舐めとる……ソレはお前やろ?」
己を燃やす炎を振り払って、レイを睨む吸血鬼。
レイはソレを冷めた表情で見下す。
「来いやド腐れ共が! 舐めとるモンにはしっかり熱いお灸添えとかんとな!!」
地を蹴って吸血鬼と屍食鬼へと殴りかかった。
「どりゃあ!!」
拳を一突き。
格闘家のように率的な殴り方をしている訳でも、特殊な能力を兼ね備えているわけでない拳。
しかしその拳は、たった一回だけで大の大人程はある屍食鬼の群れを吹っ飛ばした。
衝撃によって骨がベキベキと折れ、身体は引き千切れて肉片をまき散らす。
レイはそんな屍食鬼の血を浴びながら、更に拳を振るい続けた。
「おらオラオラ!」
二度、三度、四度と、拳を連続で、時に蹴りを交えてラッシュを掛ける。
たったそれだけで次々と屍食鬼は肉片へと化していく。
まるで、暴走する車に轢かれるかのように。
レイは決して、肉弾戦が苦手ではない。
百貴に負けたのは、百貴が特別に強かったというだけ。
吸血鬼の真祖の子であるレイの怪力が、そこらの吸血鬼のソレと同格なはずが無い。
「調子に乗るな!!」
屍食鬼の集団の中から、吸血鬼が飛び出してきた。
咄嗟に相手の腕を掴み、取っ組み合いに。
力比べである。
「このボンボンが……俺たちの仕事の邪魔しやがって!!」
取っ組み合いをしながら、男の姿が変貌していった。
着用しているコートを隆起した筋肉が突き破って内部を晒す。
ゴキゴキと骨を鳴らし、骨格からその姿を変える。
姿形も、大きさも、人ではない異形へと……。
「俺、変化苦手やねん。だからソレ辞めて」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!?」
変化の途中で、レイは掴んだ吸血鬼を燃やした。
直接掴むことで、炎を至近距離で浴びせる。
結果、吸血鬼は三秒程で灰となった。
そう、最初からレイはこうするつもりだった。
レイの一番得意な戦い方は炎の妖術。吸血鬼の不死性すらも焼き尽くす業火によって、敵を灰にすることである。
しかし、火災現場のど真ん中で炎を闇雲にばら撒く程、彼は馬鹿じゃない。
なので今回は相手に至近距離で向かってくるよう誘いをかけたのだ。
目論見通り、敵は彼に接近戦を挑んで返り討ちになった。
「さて、モモの方はどうかな?」
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