第56話 楽しい旅行の終わり


 俺たちはトランプ勝負をしていた。

 結果は俺の惨敗。

 ババ抜き、ポーカー、ジンラミー。

 あらゆる勝負でボロ負けしてしまった。


「モモくん弱~い!」

「うるさ~い! 俺はギャンブルが苦手なんだよ!」


 俺はトランプを叩きつけながら叫んだ。


 前世ではそうでもなかったのに、今世になってからトランプや麻雀などのギャンブル系が格段に弱く成ってしまった。

 チェスみたいな運の要素が入りにくいものは大丈夫なのだが、なぜかこういった運勝負では常に見放されている。

 俺、普段の行いはいい筈なのに……!


「それじゃあモモくんには一枚脱いでもらおっか」

「誰得やねん。じゃあスモモ、お前が責任取って脱げ」

「アハハ、殺すよ~?」


 義姉と親友のアホな話を聞きながら、時計に目を向ける。

 時刻は午後の十時半。そろそろ寝る時間だ。


「というかもう寝る時間だよ。ほら、早く寝る準備しよう」

「おい、何修学旅行の委員長みたいなこと言うとんねん。もっと話そうや」

「いいから早よ寝ろ」


 スモモ義姉さんのショークスリーパーを食らいながらアホなことほざく我が親友。


 というかコイツ、よく耐えられるな。

 子供とはいえ、スモモ義姉さんは上級の鬼だ。その妖力と筋力は、猛牛を簡単に縊り殺す。

 吸血鬼も怪力は有名だが、耐久性はそれほどではない。再生力が高いのでソッチ方面に妖力を回しているせいだ。

 だからスモモ義姉さんも手加減していると思うのだが……。


「この助平吸血鬼め。ここでぶっ殺してやる~!」

「アハハ~。俺ら婚約者やで? そんな真似せえへんやろ?」


 ……ないよな? 本気で吸血鬼の真祖の子供殺さないよな? ギシギシ言ってるけど大丈夫だよな!?


「姉さん、そろそろ放してやろうよ。一応ソイツも王子様みたいなものなんだから」

「え~? 変態にならないうちに殺しといた方が吸血鬼陣営にとってもいいことだと思わない?」


 やべえ、すっげー同意できる。

 けど、ソレじゃあダメなんだよ。これでも王子様なんだから。


「大丈夫。コイツが何かしたら俺が責任持ってスモモ義姉さんを守って見せるよ」


 俺は軽い口調で、場を和ませるために言ったのだが……。


「「………」」


 場が冷えてしまった。 

 アレ、キザっぽかったかな? そういった感じがしないように冗談めかして言ったんだけど……。


「お前、やっぱすけこましやな」

「なんで!?」


 こうして、今日という日は何事も無く終わる。

 旅行というイベントがありながら、特にこれといったこともなく。

 いつも通り、少しにぎやかに。旅行を楽しみながら終わる。

 当然だ、そうなるように俺が仕向けたのだから。


 朱天家とレイド家の御曹司が村に訪れているのだ。

 護衛もちゃんと村に滞在している。

 原作で何が起こったかは知らないけど、これでバカな真似をしようとする奴はいないだろう。

 そう俺は考えていた……、



 俺は忘れていた、そんな馬鹿な事が起こるから原作が出来ているのだと。


 対策はした。

 自分の持てる力を出し切ったつもりだった。

 けど、それでも原作は災害みたいに降りかかる。

 

 平和は、蹂躙される。

 楽しい時間はもうおしまい。

 ここからは、暴力と流血の時間だ。

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