第55話 原作キャラ救済?冗談じゃない。


「このボケが!」


 帰って部屋に入った途端、レイが俺に飛び蹴りを仕掛けてきた。

 無論、そんなものが当たるはずもない。

 しゃがんで避け、目標を失ったバカは壁に激突した。

 よし、今回は物壊してないな。


「お前~……! どっか行ったと思ったら、なんでフラグ立てとんねん!? どんな偶然や!?」

「それな。俺もびっくりしたよ」


 ごろんと横になる。

 同時に香る畳の匂い。

 広々とした空間に寝っ転がる畳は心地が良い。


「キサマ~! 俺がハーレム作るのを知っての狼藉か!?」

「うん、まずは落ち着こうか。キャラ崩壊してるぞ」


 面倒だが、とりあえずレイを宥める。

 こいつが冷静にならないと話が進まないからね。


「それで、おまえはハーレム作る気あるの?」

「ないよそんなの。というか、あまり原作キャラと関わる気すらないし」

「………え?でもお前、桔梗と関わってるやん」

「アレは仕方ない。事故みたいな物」


 ぶっちゃけ、俺はあまり原作と関わる気がない。



 俺の目的はあくまで酒呑童子の血からの制御と、この世界で俺らしく生きる事。原作キャラ救済だなんて考えてない。

 桔梗を助けたのは友達だから。彼女と話し、遊び、笑いあったことで桔梗をラノベの登場人物としてではなく、この世界で生きている人間だと認識出来たから命を張れたのだ。

 もし、あの時桔梗に出会わなければ。もし、桔梗と気が合わず友達にならなかったら。

 俺は桔梗を助けようとはしなかったらであろう。


 人間なんてそんなものだ。

 目の前で事件が起こったり、知り合いが苦しむなら助けるが、設定として知っているだけのキャラクターを助けようとは思わない。

 ニュースで事故や貧困に苦しむ人を視ても、実際にそれを改善しようとは誰もしないだろう。いたとしても一部だけだ。

 哀れだとか可哀想と思っても、その感情が続くのは数分程度。その分後には別の番組や動画を見て忘れている。


 原作キャラ救済?………冗談じゃない。

 登場人物なんて、こちが一方的に知っているだけの存在。そんなものは決して身近でもなんでもない。


「だから俺自身は助ける気なんてないんだよ」

「……お前、意外と冷たいな」

「そう?普通はこんなもんだと思うけど?」


 結局、俺も自分の命が大事なんだ。

 人助けすることはある。けど、それはあくまで余力。降りかかるリスクが修正可能の範囲内までだ。もし超えるなら助けようとはしない。


 卑怯と言えば卑怯なのかもしれない。

 知っていながら行動しないということは『見捨てる』と同意義だ。

 しかし、その卑怯を罵れる一般人がどれだけいる?

 居るはずがない。もし出来るなら、ソイツは一般人ではなく逸脱人だ。



 でも、家族だけは、見捨てられない。死ぬのが怖い、でも俺が知る人を失うのは、同じくらい怖い。それは喪失だ。

 しかし、一度関わってしまえばそうはいかない。



 面倒なものだ。

 いくら情報として知っても行動しない癖に、ちょっと関わるだけでその気になってしまうのだから。

 俺は自分の悪癖を知っているから関わらないようにしていたのに……。


「……友達になった以上、助けざるを得ないな」

「なに一人で結論付けとんねん。俺、置いてけぼりなんやけど」

「なんでもない、独り言だから」

「人と話している途中で独り言なんて言うなや!」

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