第54話 雪那の町案内


「あ、あの~……聞いてますか?」

「………ッハ!」


 おっとしりした声で俺の意識が戻った。

 どうやら軽く魂が飛んでいってしまったようだが、直ぐに体へ戻して何でもないよう振舞う。


「妹を助けてくれてありがとう。私は柊つらら。この子の双子の姉よ。それで、貴方のお名前は何て言うの?」

「あ、ああ。俺は朱天百貴だ」

「朱天!?」


 名乗ったと同意、活発そうな子―――雪那は驚いた表情を見せた。


「朱天ってあの酒呑童子の一族!? そういえばお母さんがヤクザさんが団体で入ってきたって言ってたけど、もしかしてソレ!?」

「ヤクザじゃないよ。何度目だこのやり取り」


 どいつもこいつも勘違いしているが、朱天家は決してヤクザではない。

 ちゃんとした国家であり、ちゃんと国民も領土も主権も揃っている。

 まあ、暴力を背景としている以上、ソレッぽい空気はあるのだが。


「ちょっと雪那ちゃん、いきなりヤクザですかと聞くのは失礼じゃないの?」

「そ、そうね……。朱天くんはヤクザ屋さんですか?」

「そういう風に聞くのよ。偉い偉い!」


 丁寧に言い換えたらいいという問題じゃねえよ。

 もしかしてこの子、天然か?


「……ヤクザじゃないよ。国家だよ国家。朱天家はその国家の王族だよ」

「王族!? ということは朱天くんってその国の王子様!?」

「……まあ、そういうことかな?」


 厳密に言えば少し異なるが、面倒くさいので肯定した。

 実際、このままいけば俺が当主になる可能性は高いし。


「え~!すごいすご~い! じゃあ朱天くんと結婚したら私がお姫様!?」

「いや、ソレはない」


 結婚したら皇后だろ。


「無理よ雪那ちゃん。王子様はお姫様としか結婚出来ないの」

「そ、そうなの……?」




「だからなるのは愛人よ」

「いや、その理屈はおかしい」


 やっぱりこの子変だ。

 どうやら俺に集まる美少女はおかしい子が多いらしい。マトモなのはネネコ河童の寧々ぐらいだろか……。


「あとは妾ね」

「君は黙ってて話が進まない。……で、君は?」


 話が進まないので話題を変える。


「私は柊雪那。この村の村長の娘。つまりお姫様よ」

「ソレは言いすぎ……というわけではないか」


 白鷺村は近隣の雪妖怪たちが己の身を守るために団結して出来た村。つまり都市国家のようなものだ。

 その村長が国王みたいなものであり、その娘が姫というのは間違ってないだろう。


「そういうことよ。控えなさい下郎」

「身分的には俺が上だからね?」


 この子、ムカつく。殴りたい。









 あの後、俺は柊達によって町を案内されることになった。


 最初は切りのいいところで宿に戻ろうとしたのだが、彼女たちに捕まってしまった。

 雪女は文字通り女しか存在しないため、子供も女児しかいないらしい。そのため同じ年頃の男子が珍しいらしく、もっと話したいという事で連行されてしまった。


 スキーしたり、雪合戦したり、雪だるまを作ったり、雪の上で沈まないよう踊ったり。……最後までダンス出来たのは俺だけなのだが。

 とまあ、俺たちは雪山ならではの遊びを気が済むまでやり、遊び疲れた俺たちは町を回っている。


「今日は楽しかったね~」

「うん。けど動いたせいでお腹空いたよ」

「じゃあご飯食べに行く?」

「うん!」


 そういうことで案内されたのだが・・…。


「ここがこの宿一番まずいお料理屋さんよ! 顔だけで観光客を呼んで、美味しくもないものを作ってるの!」

「ぼったくりバーってやつね!」

「へ、へえ~」


 う…うん、こういう裏の情報は必要だな。

 パっと見では分からない以上、現地民の協力はありがたい……。


 今度は普通の居酒屋に案内された。


「ここは居酒屋よ!きれいな女の人がお酌して」

「キャバクラってやつね!」

「………」


 ……う、う~ん。その情報は俺にはいるかな?

 見ての通り俺は子供であり、そういった店に入る機会はない。

 なのに何故ソレを紹介する?


 次は銭湯らしき場所に案内された。


「ここは混浴専用の温泉よ! ここできれいな人がおっさんと一緒にお風呂に入るの!」

「ピンクサロンってやつね!」

「お前らワザとだろ!」


 ついに我慢できず俺は叫んだ。


 何でさっきから怪しい店ばっかりなんだ!? この村もしかしてソッチ目的じゃ……ないだろう。

 確かに雪女には淫魔のような側面はあるが、何も全てがそうではない。

 そして何よりも、この村は妖怪用の温泉街という大変貴重な地。わざわざ春を売らなくても十分にやっていけるはずだ。


「え~? なんのこと~?」

「もしかしてエッチなこと考えてたのかな?」

「……」


 この女、ムカつく。殴りたい。


「あ、次の店よ、今度は普通だから」

「なんだよ、普通じゃないことは分かってたのか」


 案内さてあのは土産店だった。

 普通のお店だ。

 さっきみたいに如何わしいものではなく、観光地なら何処にでもありそうな店。

 強いて違いを言えば古民家という点だが、妖怪のやっている店なんてコレが普通だ。


 騙されたと思って入ってみる。

 店舗には温泉まんじゅうだったり温泉卵だったり何かのキーホルダーだったり。

 そのうちの一つ、真っ白な銀細工。

 片翼の鶴のネックレスに目を引かれた。


「コレ二つ下さい。あとこれとこれも」

「あいよ」


 直感に従って二つとも買い、他にも良いと思ったものを購入する。

 値段は見てないが今は子供の小遣いにしては多い金を持ってるのだ。少しぐらい贅沢してもいいだろう。


「お、さっそく買ったのね。それは誰にプレゼントするの?」

「そのネックレスは女の子用よ? お妾さんにあげるの?」

「……なんで最初に妾なんだよ。普通は婚約者とかその辺だろ」


 俺は買った物を受け取り、袋の中に入れる。

 そのあと、一通り見まわったが、何かよさそうなものは特になかった。


「それじゃあ帰るわ。誰かさんのせいでご飯食べられなかったし」

「え?帰っちゃうの?」


 雪那は寂しそうな顔を俺に向けた。


「……うん、勝手に抜け出したから帰らないと。皆が心配しちゃう」

「そう、なら仕方ないわね」


 つららは寂しそうにしながらも笑って手を差し伸べる。


「また明日遊びましょう。あの木の下で待ってるから」

「………ああ」


 明日には帰るんだけどな。

 まあ、そのことは明日言う事にしよう。

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