第53話 何でこういった運だけあるんだよ

 旅館から少し離れた山。

 俺はそこから村を見下ろして地図を描いていた。


 見取り図みたいなものだ。

 戦闘の可能性がある状況になると、こうして色々と情報を集めてしまう。

 やる必要はないと思ってもこうしてしまう。師匠の元で修行した結果だ。


「(まあ、間違っても下手なことはないと思うけど)」


 地図を描きながらコッソリ視線を近くの木に向けた。

 こちらに視線を向ける大柄の鬼が二人。

 俺の護衛だ。

 抜け出した俺を守るため、俺の目障りにならない範囲内で俺の近くを警護してくれている。


 俺は朱天家の跡取りとなったのだから、護衛の一人や二人ぐらい付くのは当然である。

 師匠の元では実戦経験を積むために付き人なんていなかったが、これが普通だ。

 だから、今回は安全に実戦が出来る。


 リカバリーが効く―――失敗してもいい実戦経験というのは貴重だ。


 被害を考慮せずに暴れるもよし。力及ばず逃げるもよし。そもそも行動しなくてもよし。

 本当にありがたい“実戦”だ。


「……ん?」


 そんなことを考えていると、遠くから声が聞こえた。

 助けを求める声。

 声の質からして女の子だ。


 距離は大して離れていない。

 十分もかからない程だ。


 足に妖力を集中させてそこに向かう。

 鬼の脚力を使うまでもな程の距離だが、早いに越したことはない。

 数分も経たずに声のする方へとたどり着いた。




「お姉ちゃーん! 助けてー!」

「あらららどうしよどうしよ……」


 そこには木に降りられず泣く女の子と、木の下で慌てふためく女の子がいた。


 木の上の子目掛けて飛び掛かる。

 5mなんて楽勝だ。その気になれば難なくできる。

 俺は泣いている女の子の前に着地。無論、女の子の安全を考慮して木を揺れないよう注意して。


「……ッきゃ!? だ、誰?」

「自己紹介は後だ。早く降りるよ」

「え? ちょ…え?」


 俺は彼女を抱えてゆっくりと降りる。

 このまま飛び降りてもいいが、今は連れがいる。あまり無茶は出来ない

 枝を階段代わりに使って飛び降りた。


「あ、ありがとう……」

「いいよこれぐらい」


 女の子を降ろしながら彼女の顔を覗き込む。

 かなりの美少女だ。

 銀髪色白の活発そうな子。

 将来は桔梗達とはまた違う感じのお嬢様になっているだろう。


 チラリと、もう一人の方に目を向ける。

 二人とも表情や雰囲気は違うが、顔のパーツはそっくりだ。双子か?


「雪那ちゃ~ん! 大丈夫~?」

「……ん?」


 その名を聞いた途端、俺の足が止まった。

 待て、今さっき何って言った?

 





「ありがとう! 僕、柊雪那っていいます!」


 どうやら、俺のくじ運は特定分野に限って神がかっているらしい。

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