第52話 キャラを助ける前にネタバレ
かぽーん。
木の桶を石畳に置く音が響く。
「お~、ええ感じやん!」
「はしゃぐなよ。いくら貸し切りだからってマナーはちゃんと守らなきゃ。ほら、かけ湯しろ」
「お前は委員長か」
俺たちは互いにかけ湯をしながら話を再開した。
「それじゃあ改めて今回の目的を言うわ。……俺らの目的は物の怪ハイスクールのヒロイン、柊雪那とつららを助けることや」
柊雪那。
物の怪ハイスクールのレギュラーキャラであり、ヒロインの一人。
外見は文句なしの美少女。銀髪色白の活発そうなスタイル抜群の美少女だ。
主人公より一歳年下の後輩キャラで性格は明るい元気ッ娘なのだが、一人であることを怖がる寂しがりでもある。
種族は雪女なのだが、彼女は氷系統の妖術を使わない。基本的に特殊な魔槍と霊符を武器に使う。
何故なら、彼女は自信に流れている雪女自の血を恐れているからだ。
彼女の双子の姉が暴走して周囲に甚大な被害を与え、自爆して死んでしまったという。
それから彼女は自分の姉の暴走を止められなかったという後悔と、自身も姉のようになるのではないかという恐怖によって雪女の力を恐れるようになったという。
また、これは今は関係ないのだが、姉が亡くなった後はレイドの姉である三大真祖の一人の娘リアム・ブ・レイドの眷属になったらしい。
「そうなったのは里が滅んで力の制御法が消えたせいだ。もし里が存続していればこうなってはいなかったらしい」
「なるほど。じゃあお前はヒロイン二人を助けるためにこの里を守りたいと」
「そういうこと。そのためにお前にも協力してもらうぞ」
そう言いながら俺たちは湯船に入る。
ほんの僅かに滑りのある、ちょうどよい湯加減のお湯が浸み込むようにゆっくりと温めてくれる。
「ソレで、その里が滅んだ理由はなんだ?」
「吸血鬼が雪女を眷属にするために襲撃しに来た」
「……?」
一瞬意味が分からなくなった。
「ソレ、お前ら吸血鬼のマッチポンプじゃねえか!」
「ちゃうわ! 俺ん家はクリーンや!俺らレイド家はそいつらとは無関係や!」
「お前らの民だろ! 何自分はやってないうですって開き直ってるんだ!? そいつらが他所に迷惑かけないよう管理するのもお前ら真祖、つまり王族の役目だろ!?」
「しゃーないやろ! 悪いヤツはどんなにいい国もで出るねん! 民が勝手に悪事働いとったからって俺らのせいにされても困るわ! 民の行動を逐次管理なんて出来るか!」
そういわれたら弱いな。
なんでもかんでも上の責任にされたら、上の人は堪ったものではないだろう。
「じゃあさ、その雪女の里を襲撃した吸血鬼は捕まったのか?」
「いや、何の裁きも受けてない」
「……おい」
「……そこはすまんと思っとる」
もしかして吸血鬼ってクソなのでは?
「ま…まあまあまあ! 俺らがソレ阻止したら解決するんや! ポジティブに行こうや!」
「……そうだな」
吸血鬼を弾劾するのは後だ。ソレよりも目の前の問題に取り組まなくては。
「ソレで、どうするんだ?」
「何もしない」
「……はい?」
また意味が分からなくなった。
「ここには真祖の子と酒呑童子の子がおるんやで? 手を出せるわけないやろ」
「……ああ、そういうこと」
確かにそうだ。
同盟国の王子と自国の王子がいる村を滅ぼそうとするバカはいないだろう。
レイの言う通り俺たちは事件当日までここにいれば犯行は防げるかもしれない。
もし犯人が何か動きを見せてもここには俺の護衛として朱天直属の精鋭がいるのだ。彼らが何とかしてくれる筈。
後はゆっくりしていれば問題ないだろう。
「それじゃあ俺たちは温泉を楽しむか」
「せやな」
湯船から上がる。
途端、レイは俺の股間を凝視してきた。
「……お前、チ〇コでかいな。その年でもうそのサイズかいな」
「ぶっ!?」
「お~いスモモ! モモのチン〇めっちゃデカ…」
「黙ってろ!」
ふざけたことほざくレイを蹴り飛ばす。
俺としては軽く足を当てたつもりだったのだが、レイのせいで焦ってしまったらしい。加減少し間違えて湯船の中に沈んだ。
しかしそこは吸血鬼の真祖。すぐに回復して顔を出した。
「お前なにしてくれるねん! くらえペケチョップ!」
腕をバツ印にクロスさせて飛び掛かるレイ。
予備動作が大げさな上に、あまりにも遅い。そんな攻撃が俺に当たるる筈がなく、あっさりと避けられた。
あ~あ、そんなふざけた技なんて通用するわけないだろう。ま、本人の分かっててやってるとは思うが……。
「べふらァ!!」
バキィ!
標的から外れたバカは、女湯と男湯を隔てる柵へと突っ込んだ。
『きゃああああああああああああああああ!!! なんで!?なんであんたがいるのよレイ!?』
『ちゃうねんスモモ!これはモモがやってんねん!』
『言い訳するなこのエロ吸血鬼! 死ね!ここで死ねボケ!!』
隔てを壊しながら女湯の方へ転がるレイ。
途端に聞こえる怒号と悲鳴。
これは不味いな……。
「……よし、逃げよう」
巻き込まれては堪ったものではない。
スモモ姉さんに気づかれてない今こそ逃げるチャンスだ。
『ちょ…モモどこや! お前のせいでこないなってんで! はよなんとかせい!』
『人のせいにすんじゃないわよ! アンタ根性くさったんじゃないの!?』
ハイハーイ無視むーし。
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