第50話 原作介入


 パーティの日から三日が経過した。

 初日は色々とあいさつ回りの対応、朱天家のルールやらを学んで時間が潰れたが、すぐに余裕が出来た。

 普通ならもっと時間が掛かるだろうが、これでも前世は会社員だった。

 子供レベルに纏められている情報なんてすぐ覚えられる。


 やることやったら後は俺の自由時間……とはならない。


 課題はいくらでもある。

 破滅フラグが無くなかったどうかは未だに不明だし、力は相変わらず暴走の危険性はあるし、そもそも朱天家に迎え入れられた時点でかなり危ない。

 母親不明の半妖がいきなり当主候補になったのだ。そりゃあ色んな方々から反感を持たれる。

 では、どうやってこの反感や敵意を払拭するか。


 力を示せばいい。


 何も変わらない。

 いつも通り鍛えて、いつも通り組手をして、邪魔者がいればソイツを排除する。

 ここに来る前から何も変わらない。むしろ、設備や物資、そして組手相手が豊富なこの場所は、真流寺院より恵まれている。


「くたばれやモモ……ぐへ!?」


 ちなみに今の訓練相手はレイ。

 空から撃ち出す炎の弾丸を蹴り返して撃ち落とそうとしているところだ。


「テメエ! いい決め台詞思いついたのに飛んでしもたやんけ!」

「知らないよ!真面目にやれ!」


 とまあ、こんな感じで訓練を行っている。


 レイとジンガさんと俺の三人での組手。

 他にも大人の妖怪と訓練することはあるが、それでもやはり同年代とやる方が楽しい。

 もちろん遊んでるだけじゃない。ちゃんと寺では日課だった鍛錬もしているし、朱天家の鬼としての勉強もしている。


「モモく~ん! そろそろ休憩にしよ~!」

「そうだね」


 バスケットを持った姉さんがやってきた。

 どうやらそろそろ昼飯の時間のようだ。


「モモ~!私のを食べて~!」

「早起きして作ったの~!」


 桔梗と寧々も来た。

 二人とも両手で重箱を支え、笑顔でこっちに向かってる。


「……今日は大量だな」


 俺は弁当をたくさん食べられるのを期待して向かった。










「お前めっちゃ食うな」


 食事を楽しんでいると、隣にいる例が呆れたような目を向けてきた。


「重箱2つ分にバスケット一箱分。アイツらの分もあるとはいえ食いすぎちゃうん?」

「え?これで腹八分目ぐらいなんだけど」

「ソレってギャグか?」


 ありえないという顔をするでこちらを見るレイ。


「暴飲暴食の好色野郎。鬼の典型例やな」

「おい、それどういう意味だ」


 暴食は当てはまるかもしれないけど、暴飲と好色は絶対違うだろ。

 第一俺は酒を一度も飲んでないし。


「いや、お前その年で三人もお手付きおるやん。ソレで好色ちゃうって無理あるで」

「まだお互い十代前半だぞ。ソレでお手付きって言うの早くないか?」

「何言うとんねん。中身はいい年したおっさんやろ」

「脳みそも巻き戻ったからいいんですよ~だ」


 転生モノで主人公が精神年齢を元の年と今世の年を足しているがアレは嘘だ。

 人格も思考もベースは脳という身体の一部の働きによって形成される。

 精神の土台となる脳が子供になっていたら、精神年齢も子供になるのは当然。

 むしろ最近、前世の『僕』としての経験や価値観は今世の『俺』によって上書きされている。


「それにお前も今世はハーレム作るって言ってなかったっけ? 原作キャラと今のうちにお手つきするとか何とか」

「うぐッ!?」


 俺が指摘すると、レイはわざとらしく胸を抑えた。


「……い、今は十歳やからセーフやセーフ」

「お前なぁ……」


 都合が悪くなったらこの手の平返し。

 これがレイという男だ。


「そ、それよりどうや? お前も俺のハーレム作り手伝わへんか?」

「は?」


 ありえないことをほざく親友に真顔で返す。

 何言ってんだコイツ?


「ハーレム作りというより原作キャラ救済やな。お前が桔梗を助けたように、他のキャラも助けへんか?」

「……出来るなら助けたい」

「せやろ!? だから俺が情報提供するから助けるの手伝ってちゅう話や!」


 原作に付いて、俺はアニメで公開された情報しか知らない。

 しかもあまりじっくり見てないせいで覚えてない箇所も多く、せんぜ美少女キャラ可愛いなと思った程度だ。

 対するレイは原作であるラノベを愛読しているらしく、キャラの設定はしっかり暗記している。

 流石にファンブックなどは購入してないが、それでも俺よりこの世界に関する情報を遥かに保有しているのは確かだ。

 その情報を使えば原作キャラの救済もスムーズに行えるだろう。

 まあ、下心見え見えだけど。


「それで、最初は誰助けるの?」

「あれ?結構乗り気?」

「画面上だけとはいえ知っているからね。それが現実にいて苦しんでいると、助けたいって思うのは当然だ」

「……お前、やっぱ良い奴やな!」


 陽気な笑顔を浮かべて俺の手を掴む。


「じゃあ、まずは雪女の双子助けようぜ」

「え?」


 あれ、そんなキャラいたっけ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る