第49話 モブ吸血鬼

 日本の妖怪はあまり他の妖怪や半妖を毛嫌いしない。


 古来より妖怪と人間との境界が緩く、妖怪の種類自体がかなり多種多様のせいだ。

 妖怪の中でも大分違いがあるのだから、人間か妖怪なんてどうでもいいじゃんというノリが古来より続いている。

 そのせいか違う妖怪同士で結婚するなんてよくあるし、人間と妖怪の子なんて珍しくもない。

 だが、吸血鬼は違う。


 吸血鬼は他種の妖怪や人間との混血を嫌う。

 己の種族こそ至高であると考える者が大多数であり、人間だけでなく他の妖怪を見下している彼らにとって、混血とは罪そのものだ。

 つまり何が言いたいかというと……。




「へッ! 半妖が当主候補なんてやっぱ日本の妖怪は雑魚だな!」


 こういった奴もいるのだ。


 俺のあいさつ回りを邪魔しようとしてきた、吸血鬼の子供が三人。

 三人とも高級そうだが趣味の悪い子供用スーツを着ている。

 髑髏柄スーツに改造スーツに金ぴかスーツ。

 センス大丈夫かこいつら。


「……」


 反応するのが面倒くさいので無視することにした。

 足掛けしようとしてきたがソレを跳んで避け、他の妖怪たちへ声をかけようとするが……。


「無視してんじゃねえよ!」


 また捕まってしまった。

 面倒くさいな。なんでそこまで俺にかまうんだよ。


 というか、なんで周囲の大人は止めないんだ?

 視線がこちらに集まっているのだが、誰もこの子たちを注意しようと動く気配がない。

 むしろ何処か楽しんでるような、俺に対して見下している感じがする。


「(……まさか、ここにいる大人全員がこんな奴なのか?)」


 そうだとすれば呆れて物も言えなくなる。

 いくら混血に対して差別意識があるとはいえ、他陣営の頭領の息子にまでソレを向けるか。

 しかもここは公式の場。

 ここで俺に無礼を働くという事は朱天家に宣戦布告するのと同意義である。ソレを穂のツにコイツらは分かってるのか?

 分からないならもう一度子供に戻ってマナーを学びなおすべきだ。

 というか、そもそも俺が嫌いならなら来るなよ。コレ俺の紹介パーティだぞ。


「半妖の癖に……痛い目見せてやる!」

「……!?」


 リーダー格らしき子供が妖気を解放させようとした瞬間、俺はほぼ反射レベルで動き出した。

 咄嗟に右人差し指の爪だけ妖怪化させ、引っ掻くと同時に封魔気術を発動。

 紋章を刻みこんで子供の妖気を封じた。

 これでもう大丈夫。後は軽く説教でも……。




 そう思った瞬間、何処かから炎が飛んできた。



「!!?」


 咄嗟に炎を爪で切り裂く。

 封魔気術を纏って炎を振り払って無効化させ、炎を出しやがたバカに目を向けた。


「……なんのつもりだ、レイ」


 炎をぶつけようとしたバカ―――レイを睨みつける。

 妖力を込めて、威圧の意味を含めて。


「そりゃコッチのセリフや。そのボケ共はとんでもないことやらかしたんやから制裁を加えようとすとるのに、なんで邪魔するん?」

「やり過ぎだ! この子たちを殺す気か!?」

「甘いでモモ。仕置きはキツめにせんと意味ないで」


 火を手に宿しながらレイは近づく。


「そこをどけ。ちゃんと落とし前付けんと俺らのメンツが潰れるし。無論お前もな」

「……本気のようだな」


 いつものふざけた様子がない。

 感情を映さない冷酷な瞳。

 本当にさっきまで笑っていたレイと同一人物なのか疑わしいまでの豹変ぶりだ。


「(……これがお前の言っていた元の世界じゃあり得ないことだっていうのか?)」


 ラノベが元とも割れる世界である以上、物語を進めるために前世ではありえないような展開があるかもしれない。

 そのための対策がこんなやり方だっていうのか?


 ……ああ、そうかもしれないな。

 確かに正しいのかもしれない。

 妖怪にとって力とは時に法をも超える絶対的なものになる。なら、こんなやり方もアリかもしれない。

 だけど……。


「このパーティの主役は俺だ。出しゃばってんじゃねえぞ西の妖怪」


 俺は妖力をまき散らして威圧する。

 対するレイも妖気で押し返し、場が俺たちの妖気で満たされる。


「……すまんかった。でしゃばりすぎたわ」


 何分間ほどにらみ合っていただろうか。

 レイが先に折れて矛を収めたので俺も妖気を抑えた。


「けど、俺はコイツらを許さんで。……帰ったら家の奴ら共々処分を受けてもらう。分かったな?」

「「「は…ハイ!!」」」


 子供たちとその親は慌てて会場から出て行った。


「……あまりやり過ぎるなよ」

「ソレが甘い言うとんねん。妖怪は人間とちゃうねんで?」


 ズイッと詰め寄るレイ。


「妖怪は人間とはちゃう生物や。前世と同じ気分でやっとると、大事な者亡くしてまうで」


 そう言ってレイは別の方へ挨拶回意に行ってしまった。

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