第48話 また別の転生者


「君が百貴君だね」

「ん? そうだよ」


 バイキングの料理を食べていると、後ろから声を掛けられた。

 銀髪金目のイケメン男子。成長すればさぞかしクールな男になるであろう。


「俺の名はジンガ・シルバーファング。種族はウェアウルフ。12歳だ。」

「(…… 随分大物の妖怪が来たな)」


 ウェアウルフ。

 狼の特性と俊足を誇り、かつては人肉を主な食料としていた種族。

 月の満ち欠けで力が増減し、満月の時に最高となり、その際のスピードと妖力はかなりの脅威とされている。

 また、一部のウェアウルフだけが持つ特殊な爪と牙には不死性を砕く能力がるとされ、中には西洋妖怪最強と言われる吸血鬼の真祖でさえ屠れると言われる。

 吸血鬼を倒す特性と人肉を喰らう食性から、同じく人間の血肉を食料とする吸血鬼とは長い間敵対していた。

 要するに、西洋妖怪のツートプというわけだ。


「十二歳ということは年上ですね俺の名は朱天百貴。鬼と人間のハーフ。10歳です」

「畏まる必要はない。君とは友達としてやっていきたいんだ。よろしく頼む」

「いえ、そういうわけにはいきませんよ」


 料理を置いて握手に応じようとする。

 瞬間、蹴りが飛んできた。


 出足からのクイックモーション。

 当てる気はなさそうだが、このまま当たるのは癪なので、蹴りに加速の威力が乗る前に止めてやった。

 同時にアッパーを寸止めする。


「……流石は鬼だ。俺もスピードには自信があったんだけどな」

「俺は半分とはいえ鬼ですからね。肉体面には自信があります」

「こっちもウェアウルフだぞ。その中でもかなり強い方だと思ってたんだけどな。どうやら天狗になり過ぎたようだ」

「相手が悪かったわ。ソイツ、フィジカル面では最強になれる逸材やで」


 レイが物陰からヒョッコリと現れた。

 コイツ、最初からそこに居やがったな。気配はちゃんとしていたぞ。


「見てたんなら止めてくれよ」

「ええやん別に。どうせお前が勝つんやから」


 ため息をつくレイ。

 おいなんだその態度は。なんかムカつく。


「コイツはジン。転生者や」

「……え?」


 あっけなくバラされた意外なる事実。

 ソレを聞いてキョトンとしていると、二人は俺にかまわず勝手に話を進めた。


「言うてコイツは原作何も知らんただの転生者や。せやから原作に思い入れもないし、何かしようとかも考えてへん」

「ソレの何がいけないんだ。いい年してアニメや漫画に耽っているお前たちの方がおかしい」

「……テメエ、今大半のオタッキーを敵に回したで?」


 ボッと手に炎を宿すレイと、腕を狼男のソレに変化させるジンガ。

 ここで騒ぎを起こされるわけにはいかないので俺は間に入って止めた。


「二人とも、こういった場では控えてほしい」

「あ、ごめんモモ」

「すまないね百貴くん。俺も大人気なかった」


 とりあえず矛を収めるふたり。

 まあ様子からして本当にやりあうつもりはなさそうだったけど。


「コイツ前世はリア充やったからアニメとか全然見いひんかったらしい。俺らオタクの敵や」

「アニメぐらい知ってるよ。パイレーツキングとかドラゴン・セブンジュエルとか」

「全部少年漫画が原作の夕方放送されとる奴やん。そんなんはアニメって言わへん。俺らが言うとるんは深夜アニメや」

「深夜なんて起きないよ。眠いだろ」

「真面目か」


 なるほど、こういった人も転生するのか。

 転生モノでは前世がオタク系の主人公が多いから意識してなかったけど、こういったタイプが転生する可能性もあるよな。


「とまあ、こいつはこんな感じや。友達になりたくないんやったら遠慮なく言ってな。俺が許す」

「なんでレイの許しが必要なんだ。ぶっとばすぞ」

「は、ハハハ…」


 とりあえず苦笑いしてお茶を濁す。


「じゃあ、改めてよろしく百貴くん」

「はい、ジンさん」

「ええんかホンマに? コイツ中学の前世、時代は生徒会長やで? 高校時代はサッカー部のキャプテンやで? 大学時代はヤリサーやで? ムカつかへん?」

「ヤリサーじゃないから。嘘教えるなバカ」


 握手しようとすると途中で割り込むレイ。

 レイの性格が今日一日で大体わかった気がする。

 たぶんジンさんのことあまり強く言えない程の陽キャラ寄りだ。

 リア充と陽キャなライトオタク。たぶんこの中で一番性格悪いのは『僕』だと思う。


「それじゃあ今日から転生同盟結成やな」

「なんだそのストレートな名前は。もっと捻ろ。バレるだろ」

「いんじゃない別に? 誰かに話す事なんてまずないから」


 けど、こういうのもいいな。


 前世でも今世でも俺は一人だった。

 パソコン越し《ネットサーフィン》の毎日だった前世と、修行漬けの今世。そのせいか前世には友達と言える人間はおらず、今世は桔梗と寧々しか友達がいなかった。

 けど、桔梗と寧々は友達というにはその……うん、言葉にするのはやめよう。後戻りできなくなりそうだ。


「おし、じゃあどっちが上か決めようや。どうせしばらくここに滞在するんやからな」

「生意気な奴だ。いいだろう、安い挑発に乗ってやる。……ついでに百貴くんもどうだ?」

「お、ええやん。あの時のリベンジしたるわ!」


 こうやって、バカみたいなことで盛り上がるのも悪くない。


「いいよ、修行の成果を見せてやる」


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