第47話 この世界について


「つ、疲れた……」


 他家の方々との挨拶を終え、三人のフォローを終えて、やっと一息付けた。

 三人が用意してくれた料理を食べる。

 うまい、今日からこれを毎日食えるなら悪くないな。


「お~お~。モテる男はちゃうなぁモモく~ん?」


 ニヤニヤとバカにした顔をするレイ。

 たぶん、今日ほど友達を殴りたいと思った日はないはずだ。


「うっさい金髪ショタ」

「お前もガキやろ。むしろ、背丈とか顔つきとかお前の方がショタっぽいぞ」

「え?」


 思わぬ反論に一瞬俺はたじろいだ。

 どういうことだ、これでも最近は男らしくなったな~と思っていた頃なのに……。


「スモモがお前可愛がっとんは強さもあるけど見た目もやで? だってお前普通に可愛いモン」

「お、男に可愛いって……。二重の意味できついんだけど」

「そう言われてもな……。あ、そういやスモモが昔の服引っ張りだしてお前に着せる計画立てとったな」


 まるで独り言のような感じでポロッと恐ろしいことを吐くわが友。

 なんとしてでも阻止せねば!


「それにしても……いや~、お前女の子の扱いうまいな~。将来プレイボーイになるんちゃう?」

「ソレはないよ。あの二人だけでも最初は手を焼いたんだから」


 本当に大変だった。

 あの二人、事あるごとにケンカしだすもん。

 俺が山を下りて一度家に戻り、顔合わせしてからあの調子だ。

 そりゃいつかは慣れるわ。


「半分は茶化しやけど、もう半分は純粋に尊敬しとるで? だってあのスモモすら言う事聞かすなんてな」

「ん?どういう事?」

「スモモは人の言う事聞かへんのや。こういった場でも我儘言(ゆ)うて困らすねん。この間なんて早く帰りたいって言うて無理やり終わらせたからな」

「……え?」


 流石にその話は信じられなかった。

 いくらスモモが朱天家の一人娘だと言ってもそこまでの力あるとは到底思えない。

 コイツ話を盛ってるんじゃないのか?


「いいのそんなことして?」

「もちろんアカン。けどスモモは朱天家のお姫様や。舞姫さん以外は誰も逆らえへん」

「そこが信じられないんだよ。いくらここのお姫さまでもそんなことされたら反感を持たれたり舐められたりすると思うんだけど」

「ソレが普通や。人間の世界ではな」


 一呼吸おいてレイは話を続ける。


「この世界じゃ上の連中は何しても許される。たとえどんなワガママでも下のモンに聞かせられる。……前世で原作読んで、そう思ったことないか?」

「………いや、俺はアニメ勢だから原作は厳密には知らないだ」

「アニメでもその側面は出とる。いわゆる“ご都合”って奴やな。ソレがこの世界でも存在しとる。……お前も感じたことないか、不自然に事件が起きたり解決したりするのが」

「……」


 言われてみればそうだ。


 原作では、妖怪共がバンバン事件を起こし、ソレを主人公たちが解決する。

 現役高校生で、つい最近まではタダの子供だった主人公が。それまでは何の訓練も受けず、知識すらない素人が。

 作り話だから何も思わないが、現実になったらどうだろうか。

 その世界の大人は何してるんだと思わないだろうか。



 そもそも、ちゃんとした世界なら“物語”が始まることなんてないのだ。


 何か問題が発生して、何か問題点があるから主人公たちが行動して解決する。そうしてストーリーが始まるものだ。

 日常モノなら兎も角、バトルもの主人公が解決するべき問題がないのは致命的。まず話すら進まない。

 だから、この世界にも当然問題がある。

 普通に考えたらありえないようなものでも、ソレは解決するべき問題として存在しているのだ。


「けど、だからといって“ご都合”が常に働くとは限らないでしょ?」

「まあな」


 俺にとってこの世界はアニメの世界と同時に、前世と同じように存在している世界とも認識している。

 確かにこの世界には前世で見たアニメと同じような“ご都合”の気配はするが、何も百パーセント機能しているかと聞かれたら首をかしげざるを終えない。

 下地は俺の知っているアニメだろう。キャラクターも設定も存在している。だがそこには差異が存在する。

 よって、この世界のご都合がアニメ通りに働くとは限らない。


「前世じゃありえへんことがここでは起きる。けどだからって原作が当てになるとも限らない。……難しい話やな」

「……そうだね」


 ああ、本当に難しい。

 けど参考になるものがああるあたり、前世よりマシ……ではないな。

 本当にマシなら命の危険になんて晒されない。


「なあ、俺ら組まへんか?」

「ん?ソレって友達ってこと?」

「いや、文字通りの意味や。転生者って特別な奴に会うなんて、まず絶望的や。もう……これ以上はおらんと思う」

「……そうだね」


 皆まで言わなくてもわかる。

 彼は転生者という同類と、転生という秘密を共に抱える仲間が欲しいのだ。


 それは俺も同じこと。

 誰にも打ち明けられない、或いは言っても信じてもらえない秘密を抱えるのはしんどい。

 それに転生者は俺だけ―――自分だけが周囲と違うという孤独感もそれなりに堪えた。

 たったこれだけで辛いと感じるあたり、やっぱり『僕』は弱い人間なんだろう。


「じゃあ今日からよろしくな、モモ」

「うん、よろしくレイ」

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