第46話 百貴紹介パーティ


 華やかな会場の中、俺はひたすらバイキングの料理を食べていた。

 長机にこれでもかと盛られた料理の数々。

 出来立てを表す湯気と、空腹を刺激する匂い。

 このまま考えても埒が明かない。

 俺は考えることを放棄して食事を優先した。……いや、もう現実逃避はよそう。



 どうしよう、何言えばいいのか全然考えてないんだけど。


 いきなり知らされた俺の誕生会。

 どうやら頭領代理は軟禁状態だった俺を本気で正式に朱天家の鬼だと認め、本家に取り入れるつもりのようだ。

 今日はそのための社交界デビュー。


 うん、マジでどうすればいいのか分からない。


 どうしよう、こういうのって何言えばいいのだろうか……。


「あ、やっと見つけたわ百貴!」


 もっちゃもっちゃと料理に舌を打っていると、会場の端から河童組の一人娘こと寧々がやってきた。

 いつものラフな格好ではなく、ちゃんとした子供用のドレスを身に纏っている。


「おめでとうモモ! やっと本家に認められたのね!」

「うん、まあね。けどあまりに突然すぎて驚いたけど」

「そんなことないわよ!むしろ遅いぐらいだわ!」


 興奮した様子で距離を詰める寧々。

 可愛い子に密着されるのは歓迎するが、ソレが面白くない方が一人……。


「寧々ちゃん、ちょっと近すぎない?」

「あ、いたんだ桔梗」


 我が幼馴染こと桔梗である。

 正装用の着物を着た彼女が俺から寧々を引きはがした。


「河童会の後継ぎがちょっと男の子に馴れ馴れしくし過ぎじゃない?」

「子分が親分の近くにいるのは当たり前じゃない?」

「その子分って何? 寧々ちゃんが勝手に言ってる事じゃないの?」

「そんなことないわ。ちゃんと盃交わしたんだから」


 いや、別に盃なんてやってないからね。

 君が勝手に俺の飲んでたコップを取って飲んだだけだからね。

 しかもそのあと子分になったんだから名前で呼べとか言いやがって……!

 まあ別にいいんだけど。いいんだけど!

 あと、ウチに盃なんて制度ないし。


「モ~モく~ん! これで正式に私の弟君だね~!」


 二人が争いっている間にスモモ姉さんが抱き着いてきた。

 姉さんの恰好は普段とそんなに変わらない。

 やはり金持ちの家は日常からして豪華だ。

 俺もそのうちの一人になるんだけど。


「いいんですか、当主が俺になる可能性が出たんですよ?」

「当主なんて最初から興味ないわよ。ずっと強い妖怪や退魔師と戦うなんて私はごめんよ」

「……」


 いや、俺も御免だからね。

 俺が他の妖怪と戦っているのは自分を鍛えるためと師匠の命令、後は俺がやらないと誰かが傷つくからだよ。

 積極的に戦おうと思えるほど、俺は強い自我を持ってない。


「ちょっと朱天のお姫さま、モモに近すぎじゃない?」

「あら、いきじゃない。この子は私の弟なの。なら姉が可愛がるのは当然のことよ」


 俺に密着する姉が気に入らないのか、さっきまで揉めていた二人が俺から姉さんを引きはがす。


「何言ってるのスモモちゃん。モモのお姉さんポジションはずっと昔からいた私よ?」

「そっちこそ何言ってるのかな桔梗ちゃん? 幼馴染でも所詮は他人同士じゃない。私とモモくんは正式な姉弟なるんだから!」


 姉弟の部分を強調する我が姉。

 ソレが面白くないのか、桔梗と寧々は更にヒートアップした。


「姉弟ってことは結婚出来ないじゃん!だったら幼馴染の方がいいよね!」

「何よ、ウチでは姉弟でも異母姉弟なら結婚出来るのよ! ちょっとモモくんと仲いいからって威張らないで!」

「けど姉弟婚をした妖怪ってあんまりいないじゃない! 子分と親分なら結婚したって話はいくらでもあるけど!」

「何よソレ! だからって結婚出来るって限らないじゃない! 河童なんかより同じ鬼同士で結婚した方がいいわよ!」

「河童の何がいけないのよ!? ちょっと強い妖怪だからって調子に乗らないで!」

「そうよ! どうせなら同じ半妖の方がいいに決まってるわ!」

「余計ダメじゃない!」


 不味い雰囲気になってきた。

 子供とはいえ社交界の場で口喧嘩なんてするもんじゃない。

 しかもその内容に種族を差別するようなものが入るなら猶更だ。

 仕方ない、俺が止めるとするか。


「みんな~、ちょっといいかな?」

「ん?なによモモくん」

「ちょっとあそこの人達が呼んでるから行くんだけど、その間に俺の料理を盛ってくれない?」


 そう言って俺は三枚の皿を差し出す。


「分かったわ! じゃあ私がやる!」

「あ、私も!」

「私も私も!」


 こうして、三人は口喧嘩をやめてそれぞれバイキングの料理を盛りに行った。

 あとは様子を見て一人一人をフォローすればいい。


「それじゃあ行くか」


 俺はちらちらと見ている妖怪の方々の方に向かった。

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