第44話 同じ転生者


「いや、やりすぎやろ」


 訓練場から一番近い医務室。

 そこまで俺はレイドを運び、ベッドに寝かせてやった。

 出来る限りのこと応急処置はやったので後は彼の身体に任せる。

 とはいっても再生力の高い吸血鬼だから血を吸ってればすぐに治るだろう。



「ごめん、いつもの修行がこんな感じの組手だから……」

「いや、どんな修行やねん」


「バキバキに骨折られて、治療の妖術で治されたらまた組手で骨折られる修行?」

「それ虐待通り越して拷問受け取るやんけ」


 いや、そこまでひどくはないはずだ。

 俺も無抵抗でやられているわけじゃないし、傷を負って得られるモノもある。 


「お前よぉそんな修行続けられたな」

「普通は無理だろうね。けど、俺は鬼だから耐えられる」

「……そういう問題?」


 確かにかなり無茶苦茶な修行方法だが、そもそも俺自体が鬼という無茶苦茶な生物だ。

 人間と比べるのが馬鹿らしくなるほどの身体能力と治癒力と強度を誇る鬼の肉体。

 生半可な修行では成果を得られるどころか訛ってしまう。

 

「……う~ん、人間と同じような修行しても意味ないことは分かるわ。けど、だからって骨折れるようなことするか?」

「そこは人それぞれならぬ妖怪それぞれってことで」

「……本人ならぬ本妖怪のお前がソレでええんやったコレ以上言わんわ」


 どこか納得してない様子のレイドくん。

 何が不満なんだろうね。


「話変えるけど、お前転生者……強いて言うなら憑依転生したな?」

「うん」

「あっさり認めんなや!」


 返事すると突然怒鳴りだした。

 何でだ、実際そうなんだから正直に答えるべきじゃん。


「いいじゃん別に。君も転生者だろ?」

「……気が付いとったんか」


 メインヒロインの一人に、リアム・ブ・レイドというキャラがいる。

 スタイルの良いヒロインが様々いる中でもトップクラスのプロポ―ションと爆乳を誇るキャラであり、物の怪ハイスクールの看板ヒロインだ。

 そんな重要な位置づけだからこそ物語の中でも主人公に次いで焦点が当てられ、家族や友人もかなりの頻度で物語に登場している。

 だが、その中でも弟なんて登場してないし、何よりも彼女は一人っ子だ。ライトなんてキャラは存在しない。

 考えられる可能性は一つ。


「お前がオリキャラの転生者である可能性だ」

「正解や。俺は完全オリジナルの転生者。とはいっても特典はあらへんけどな」


 ため息を付くレイド。


「ソレで、なんで俺が転生者だって気づいたんだ?」

「原作の朱天百貴知っとったら思いつくやろ。あれだけの強さに封魔気術なんてドマイナーな術を使う何て考えられへん。ということは百貴に転生者が取り付いたか周囲に転生者がいて何か吹き込んだかのどっちかや」

「……なるほど」


 上体を起こし、地面に足を付けるレイド。

 どうやらもう鎖骨はある程度回復したらしい。

 流石は吸血鬼。もう妖力の封印を解除したとはいえ、骨折レベルでもここまで回復するとは。


「それで、お前こっからどうするん?」

「どうするって?」

「目的や。俺はハーレム寝取ってウッハウッハするために強くなろうとしとるけど、お前はどうなん?」


 コイツ、サラッとひどい事言うな。


「特にない。力を制御して呑まれないようにする。これが今の目的だ。そのあとは制御できるようになってから考える」


 今は修行とこの力に向き合うことで手一杯だ。力を制御したら何しようなんて皮算用をする気にもなれない。


「なるほどなぁ。お前は暴走系の力か。なら色々考える前に制御出来るようになろうとすんのは当然やな。……なら一つ聞いてええか?」

「何?」

「お前、原作ブレイクする気あるか?」


 若干真剣そうな表情で彼は聞いてきた。


「原作のキャラは悲惨な過去を背負っとる。キャラだけじゃなくてモブも妖怪や事件に巻き込まれて死んどるのは一杯おる。……俺らなら助けられるんとちゃう?」

「……目の前にいるなら助ける」


 俺は桔梗と結花さんを助けたことを、俺も同じことを考えていたことも話した。


 別に全てを助けようとは思わない。

 前世でも貧困で苦しんでいる国を知識として知っていても、特に何もしようとはしなかった。

 今回も同様に、自分から動いて誰かを助けようなんてことは思わない。

 けど、目の前で起きたり自分に関係のある人なら助ける。


「妖怪も人間と同じだ。赤の他人を助けようなんてまず思わない」

「嘘やな」


 バッサリとレイドは俺の発言を切り捨てた。


「お前、一度桔梗を助けとるやん。そういう奴は二度も三度も助けるで」

「一度会って知り合った場合はね。けど俺と桔梗以外のキャラには何の接点もない」

「もう接点あるやん。ソイツを知っている。ソレだけでお前みたいな人間は動くで?」

「……」


 一旦俺は押し黙る。

 何だ、何が言いたいんだ?


「まあええわ、俺は俺のしたいことをする。お前もそいうしたらええ」


 そう言ってレイドは立ち上がり、部屋から出て行った。

 もう治ったのかよ、鎖骨。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る