第42話 初めての同年代とのケンカ
「その子、私と婚約したいらしいの」
「……へ~」
金髪ショタが気絶してから事情を説明してもらった。
名前はライト・ブ・レイド。
吸血鬼の真祖の長男であり、吸血鬼たちと関係を上手くするために姉さんと婚約しているようだが……。
「え、でもこの家の後継ぎって姉さんだよね。誰が次期党首になるんだ?」
「私よ。なんかこの子家を継ぎたくないらしいの」
「ふ~ん」
そんな子もいるだろう。
俺も家督なんて継ぎたくないって思ってるし。
まあ、俺の場合は継ぎたくても継げないんだけど。
「ていうか何でさっきからちょくちょく敬語入ってるのよ?」
「……」
距離感を測ってるんだよ!
姉の顔と名前は知っていたから姉がいる事実は受け入れたが、当人と会って『ハイ姉なので仲良くしましょう』とはいかない。
「いえ、まだ姉がいるっていう状況に慣れてないんです」
「え? 私がお姉さんなのは嫌?」
「そうじゃなくてまだ慣れてないだけです。ほら、弟妹なら兎も角、姉って出来ないでしょ?」
「う~ん。難しい話は分かんない!」
彼女はそう言いながらいきなり抱き着いてきた。
「兎に角、お前は私の弟なの!何が何でもお姉ちゃんって呼ばせるんだから!」
「は、ハハハ…」
苦笑いしていると、再びあの金髪ショタ―――ライト・ブ・レイドが部屋に入ってきた。
今度はどうやら冷静らしく、先程見せていたような暴走っぷりはない。
「スモモ、さっきはすまんかった。ちょっと冷静さなくしとったわ」
「ううん、いいよ。ライトが暴走するのはいつものことだし」
「うっ!? そ、そのことは反論できんけどな、今回はお前が約束すっぽかしたからやで!」
「約束?」
コテンと首をかしげる我が姉。
「そうや! お前今日は一緒に桜見に行くって言ったやろ!」
「あ~! アレね! つまんないからイヤ!」
「なんでや! なんで今更!?」
「だって~、ここは一年中桜咲いてるもん。もうずっと見てるから飽きちゃった。それよりも……」
今度は俺に抱き着こうとするも、ソレを先読みして俺は逃げる。
「ダメですよ姉さん。一度約束したことはちゃんと守ってください」
「え~。だってイヤなんだもん」
「ダメったらだめです。どうしても嫌ならちゃんと断らないと」
少し強めに、叱るような口調で俺は続ける。
「悪いことをしたらちゃんと謝らない人は姉さんと認めたくありません」
「ごめんねライト。私は弟くんと遊ぶからあっち行って!」
「ぐはッ!?」
ダメージを受けて倒れるレイド。
なんて酷い断り文句を言うのだろうかこの姉は。鬼なのか……鬼だった。
「紹介するね。この子は今日から私の弟になる朱天百貴よ! とっても強い半妖なの!」
お気に入りのぬいぐるみを見せびらかすかのように俺を紹介する我が姉。
何故こんなに俺を歓迎してくれているのか分からなくて少し不気味だけど、こう素直に好意を示されて悪い気はしない。もちろんライク的な意味でだ。
「……百貴っていえば、あの半妖の子やな? なんで今更になってここにおるん?」
何処か訝しむ様子のレイド。
失礼な発言に思えるが彼の意見はもっともだ。
今まで隔離されていたのに、何故今更姉弟認定されたんだ?
「とっても強いからよ! お母さまから聞きたわ、七歳になってから妖怪化して退魔師を倒して、最近は悪霊退治とかもやってるらしいの! ホントにすごいわ!」
「(ああ、そういうことか)」
姉の発言を聞いてやっと俺が歓迎された理由が理解出来た。
どうやら本家は俺の力を認め、ソレを利用する方針らしい。
鬼は良くも悪くも実力主義だ。
半妖が毛嫌いされるのは弱いからであって、特別に強ければ疎まれるどころか歓迎される。
力を示せば卑しい身分でも認められ、力がないのならどれだけ家柄が高くとも見下される。
これが鬼という妖怪だ。
「なるほどな。つまりソイツよりも強かったらええんやな。……なあ、もう一回やらへんか?」
いきなり、レイド少年は獰猛な笑みを浮かべた。
何をなんて無粋なことを聞くつもりはない。言わなくてもわかるから。
「ちょっとライト何言ってるのよ!? お前さっき負けたでしょ!?」
「油断したからや。あと俺はあんまし肉弾戦得意ちゃうし。……どや、ここは公平な勝負しよか?」
公平ねぇ……。
鬼相手に肉弾戦というのは不公平だからな。
言ってることは間違いじゃない。
「ちょっと何かってなこと言ってるのよ!? 百貴くんは私の弟なの! 私と遊ぶの!」
「いや、いい機会だ」
俺は姉さんを優しく押しのける。
「折角本家まで来たんだ。鬼らしく力を示さないと」
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