序章2 ルーキーオーガ

第39話 真流寺院の修行風景


 山奥のとある場所に、その場所は存在する。

 ハイキングコースから大きく外れた奥深く。

 結界によって外界から阻まれ、木々と一体化さいているかのような寺院。

 真流寺院。

 現代文明から隔絶された異世界のようなこの場所で、破戒僧のような者たちが日々過酷な修行に明け暮れている。


 

 ダンッ!

 石畳を踏みしめる音が無数に響く。

 無数に僧兵達が何かを囲むかのように立ち回り、飛び交かかる。

 あるものは拳や蹴りを、あるものは突進タックルを、またある者は棍などの武器を持って。

 それらを集団の中央で捌くのは、未だ十歳ほどの小さな子。

 朱天百貴。

 この寺院で唯一の人外であり、子供であり、そして最強の弟子でもある。


 

 修行を始めて早三年。

 彼は既に僧兵とまともに打ち合う、どころか一方的な戦いになる程のレベルに到達した。

 本来の彼は穏やかな性質だが、鬼の血による暴力衝動は戦いへの躊躇と恐怖を消してしまう。

 無論、呑まれると血肉と闘争を求める鬼となってしまうが、百貴は三年前に制御する切っ掛けを掴んだ。

 そして今、彼は冷静に戦えるようになった。



 空気を裂いて迫り来る僧兵たちの攻撃。

 殺気は無い。

 組手だから当然と言えば当然だが、たとえ鬼でも喰らえば骨は折れる威力。

 百貴は正面から受けず、横から叩いて逸らす。


 拳をはじき、蹴りを避け、こん棒を受け流す。

 何手かこのやり取りを行い、こん棒による足掛けを跳んで避ける。

 着地したと同時に、待ち合わせたかのように僧兵たちが襲ってくる。

 誘導されたのだ。

 僧兵たちの攻撃を腕の動きで捌く。



「……ッグ!」


 瞬間、ビリっと電流のようなものが百貴の肉体を走った。

 大した痛みも痺れもない。

 しかしソレは多対一の戦闘では大きな隙になる。


「チッ!」


 百貴の頭から角が生える。

 奈良でよく見かける鹿のような角。

 三年前のバンピとはえらい違いである。


 拳を構えて次の攻撃に対応しようとした途端……。



「そこまで!」


 女性の声が反響した途端、百貴たちの動きがピタリと止まった。

 声の主は真流天牙。

 彼らの師匠である。


「今日は終いとする」

「はぁ。まだ昼前ですが」

「昼前だからだ。見ろ」


 言われ、天牙が顎で示した先を見る。

 積み重なる僧兵達。

 彼らはぐったりとして動かない。


「いい加減、飯を作れる者が居なくなる」

「俺がしましょうか?」

「いらん。お前の飯は不味い」

「しかし、俺ならまだ体力余ってますよ?」


 腕を動かしてアピールする百貴。

 ソレを見た天牙はため息を付き、倒れている僧兵たちに一言。


「……聞いたかお前たち。このままでは百貴の作る飯になるぞ」

「「「俺たちが作ります!」」」


 即座に立ち上がる僧兵たち。

 ソレを百貴は微妙そうな顔で眺めていた。













 あれから3年が経過した。


 桔梗と高尾さんの関係は解決した。

 結花さんが二人の間に立って色々と手を回してくれたおかげだ。

 原作と違って結花さんが退魔師に粛清されずに生存し、結花さん自身も高尾さんを愛している。関係の修復は最初から時間の問題だったんだ。

 今は高尾さんの元で桔梗も修行している。


 こうして桔梗の問題は解決した。

 次は自分の問題だ。



 俺は今までわざと原作について考えなかった。

 

 この世界はラノベの世界に似ているが、俺にとっては紛れもない現実だ。

 ラノベの世界だと考えていれば何処かで現実ではないと認識して、取り返しのつかない過ちを犯すかもしれない。

 ソレを恐れて今までこの世界

 しかし、もう目を逸らすわけにはいかないのかもな。



 いい機会だからざっと原作でも朱天百貴について考えてみよう。


 朱天百貴。

 この世界の元になっているとも思われるラノベ、物の怪ハイスクールの踏み台キャラ。

 性格はプライドが高くて女好き。権力で色んな女に手を出して自分のモノにしており、ヒロインキャラの一人を権力で無理矢理手籠めにしようとしてぶっ飛ばされた。

 ハーフとはいえ酒呑童子の血を継いでいるのでその妖力はかなり大きいが、鍛錬をサボって女遊びに興じていたため力を使いこなせず、そこを主人公に突かれた。

 二次創作界隈では寝取り要員として人気であり、主人公に勝ったIFの世界では、主人公のヒロイン全員を寝取ることになっている作品をちらほらと見る。



 一応、原作みたいな目に遭わないための対抗手段は考えていた。

 方法は至極単純。最初から関わらないことだ。

 百貴がぶっ飛ばされたのは、ヒロインを無理矢理手籠めにしようとしたから。なら、最初からヒロインに関わらなければいい。

 それだけで万事解決すると思っていただが……。


「もう無理だな」


 ソレはもう通じなくなった。


 俺は既に原作を歪めている。

 本来助かるはずのない命を救い、メインヒロインである桔梗を救ってしまった。

 これで原作と関わらずに生きて行けというのが無理な話だ。

 ならば腹を決めて進むしかない。


「百貴、飯が出来たぞ。配膳を手伝ってくれ」

「は~い」


 とりあえず今は修行に集中しよう。

 俺は僧兵の一人、井川さんに呼ばれて配膳の手伝いに向かった。

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