第34話 助けてもらっているよ
「……ッハ!」
目が覚めると、俺は洞窟の中にいた。
見覚えのある石の天井。
俺と桔梗の秘密基地だ。
「モモ! よかった、やっと起きた」
「……桔梗? ……あいつはどうなった!?」
俺は腹筋で無理矢理起き上がる。
肉体は既に回復済み。痛みもダルさもない。元気はつらつだ。いつでも戦える……。
「……ああ、俺、負けたんだったな……」
ちゃんと覚えている。
変化して挑んだというのに、何も出来ず返り討ちになった無様な自分を……。
「あ……ああああああああああああああああああああああ!!!」
「も、モモ!?」
俺は堪らず叫んだ。
怒り、羞恥、後悔、焦燥感。
ごった煮のように渦巻くさまざな感情を吐き出すように。
ああ、本当にムカつく。情けない。
桔梗を守るとか言っておいて、あれだけ格好つけて。
それで結果はどうだ? 何も出来てないじゃないか。
いや、そもそも俺が誰かを助けるなんて無理だったんだ。
生まれ変わって俺は物語の主人公に……選ばれた存在になった気になっていた。
転生という常人では出来ない体験、鬼の力という前世ではない力、酒呑童子の子孫というこの世界の中でも特殊な血統。
それら全てを兼ね備えた瞬間、俺は自分を特別だと思っていた。
前世の『僕』《モブ》から
家庭環境も肉体も人格も。全てが前世とは全くの別物。
けど、肝心な部分は……僕は、何も変わってなかった。
無力で臆病な僕のまま……。
「……ううん、私はもうモモに助けてもらってるよ」
「モモ、あんたのことだから自分が誰も助けられない情けない男だって思ってるでしょ?」
「な、なんで……?」
「フフッ。そんなのずっと一緒にいたんだからわかるわよ」
桔梗は笑う。
何時あの男がコイツを殺しに来るか分からない状況なのに、安心している笑顔を俺に向けた。
「私、モモと会うまでずっと友達がいなかった。けど、モモが色んなことを教えてくれたんだ。……モモが、私を『寂しい』から助けてくれたんだよ」
「だから、これからもモモが助けてくれるって信じてる。だってモモ、とても強い鬼なんだから!」
「……」
ああ、やっぱ俺って単純だな……。
こんな小さな子に、ちょっと言われただけで俄然やる気になる。
なんて現金な奴なんだ、我ながら呆れる。
けど、それでも……。
「(裏切るわけには、いかねえな……!)」
これだけ期待してくれているんだ。
まだ七歳の子供が、俺みたいな奴に。
子供だからなんて言い訳は通じない。なにせ前世じゃ俺は大人だったんだから
……いや、そんなものは誤魔化しか。
本当の理由はもっと単純。自分でも笑ってしまうものだ。
「……桔梗、俺行ってくる」
「うん、勝ってきてモモ!」
俺はゆっくりと洞窟から出る。
不思議な感覚だ。
俺自身に特に大きな変化はないはず。
少し桔梗と話しただけ。
ただそれだけなのに、なぜか不安とあの男への恐怖が何処かへ消えていた。
「(いや、変化と言えば一つだけあったな)」
絶対に負けられない理由が出来た。
「俺は……この子を守りたい」
これだけで、命を掛けるには十分すぎる理由だ。
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