第30話 河童会糾弾


「貴様ら……子の失態の落とし前をどうつける気じゃ!?」


 河童組のとある一室。

 朱天家のソレと遜色ない広さの部屋で河童組の妖怪たちは重苦しそうに俯いていた。

 声の主である爺やこと竹蔵の荒ぶる妖気に中(あ)てられ、震えているものまでいる。

 前回の集会とは違い、熱波のように荒く重い空気。

 妙な発言をすれば殺す。責任を取らせる。

 彼の妖気は語っている。


「この土地は朱天当主が貴様らに賜った土地。ソレを管理出来ず、剰え坊ちゃんにあのような目に遭わせたとなれば、相応の償いは覚悟してもらうぞ」


 怒りのあまり竹蔵の人間としての姿がブレる。

 頭には熱せられた刀のような角が生え、目がガラス玉のように濁る。

 今にも一人二人殺さんばかりの勢いである。


「待てよ親父。ここは責任を追及するための会議じゃねえぜ?」


 突然、竹雄が重くなった空気に待ったをかけた。


「急に押しかけてきたのは俺らだ。坊ちゃんを数日だけとはいえ預けるなら、事前にもっと調査とかするべきだったんだ。なのに無理言ったのは俺らだぜ?」

「……確かにそうじゃな。じゃが、だからといって領地の管理を蔑ろに行い、そのことで坊ちゃんが傷ついた事実は変わらん」


「本来この地は当主様が河童組(キサマら)を信用してお与えになったもの。だというのにその管理を蔑ろにするということは、当主様の顔に泥を塗ったも同然。その上朱天家のご子息である

坊ちゃんに被害が及んだ。……これはどう見ても我らへの敵対行為に見えるが?」


 ギロリと、ガラス玉のような目を向ける。

 口調は冷静だが、目線と声が言っている。

 テメエ本気でコイツらを庇うのかと。


「確かに、結界の管理不届きのせいで坊ちゃんが被害を被ったのは事実だ。その落とし前はいつか付けてもらう。だが問題はそこじゃねえ。……なんで結界の穴の先に退魔師が何十人も張っていたかだろ?」

「……」


 竹雄の言葉に一旦冷静さを取り戻す竹蔵。


 本来、退魔師が朱天家などの妖怪組織に手を出すのは稀である。

 退魔師も組織的として機能する以上、決して妖怪の血に飢えた狂人集団ではない。

 下手に組織的な妖怪の集団に手を出せば、痛いしっぺ返しが来るのは当然理解している。故に、朱天家などへの扱いは自然に慎重なものへとなっている。

 無論、付け入る隙が見けたら突くのは明白だが。


「だが、あの退魔師共は末端とはいえ朱天家に手を出した。……そして、おそらく今回の件は前回縄張りに入り込んだ吸血鬼も関与していると考えている」

「「「!!?」」」


 竹雄の言葉に周囲がざわついた。

 一度目は朱天家の縄張りである町内に、二度目は朱天家の傘下である河童組の結界内に。

 流石にこうも連続して事件が起きれば嫌でも何者かが朱天家にチョッカイをかけていると疑ってしまう。


「その結果、俺らは坊ちゃんをあんなザマにされ、お前たちは当主の娘さんが被害に遭った。……こうなったら動かざるをえないだろ、お前らもな」

「「「!!?」」」


 ソレを聞いた途端、河童組の妖怪たちは全員仰天した。


「お前らも悔しいだろ、領地を荒らされて子供が攫われ、お前らんとこの当主の一人娘があんな目に遭わされたんだ。今は留守だが、当主の寧子さんが聞いたらどう思う?」

「「「………」」」

「妖怪としてどうする? まさか、このまま泣き寝入りするつもりじゃねえだろ?」

「そ…そんなわけないだろ!」


 河童組の中で一人の河童が立ち上がった。


「お、俺らだって妖怪だ。ずっと舐められてるわけにはいかねえ!」


 集団の中からお前何言ってんだという旨の視線を向けるモノが何人か現れる。

 しかしその河童はすぐ視線で返す。他にどう言えと。


 本音を言えば、この中にいる妖怪たちは報復なんてしたくない。

 しかし自身の組の娘が被害に遭った以上、何かしらの行動をしなくては示しが付かない。故にやらざるをえないのだ。


「だよな! 俺らも坊ちゃんをやられた以上、黙ってるつもりはない。今からでも動くつもりだ」


「坊ちゃんが全員皆殺しにしちまったから情報は聞き出せなかったが、ある程度の目星は付いている。協力してくれるよな?」

「「「ああ!」」」


 彼らはそう言うしか選択肢がなかった。

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