第28話 燃え盛る夢
燃え盛る都の中、『俺』は思う存分に暴れていた。
悲鳴が聞こえる。
人々が逃げ惑う。
辺りに死体が転がっている。
全部『俺』がやったことだ。
腕を振るう。
ソレだけで爆風が吹き荒れ、周囲の物を全て吹き飛ばした。
息を吹きかける。
ソレだけで爆炎が噴き出し、周囲の物を全て焼き滅ぼした。
『おのれ悪鬼め! ここで討伐してくれる!』
場面が切り替わって、荒野の戦場に変わる。
眼前には千を超える軍勢。
歩兵、弓兵、槍兵、騎馬兵。
随分と豊富だ。ただ、少し質がよろしくないかな。
「闘技・水・三の技―――
妖気を掌に少しだけ集め、敵目掛けて拳を打つ。
打ち出すと同時、全体へ広がるように妖力が解放され、眼前の敵を一掃した。
叫び声が響き渡る。
俺に恐怖し、理不尽に混乱する悲鳴だ。
本来なら生理的に嫌悪すべき悲痛な声が、今の俺には安らぎを与えてくれた。
「お、まだ生き残りがいるのか。なら今度は少し強めにいくか」
闘技・花・一の技―――
槍のように刺突。
妖気を込めて放たれたソレは、ロケットのように射出され、射程上にあるもの全てを一掃。遠く離れた山を砕くことでやっと止まった。
「ふ…アハハハハ!」
場面は切り替わってまた燃え盛る都。
先程と同じように俺は暴れていた。
―――暴れる。
人間共の心地いい悲鳴。
楽しい。
まるでクラシックでも聴いてるかのようだ。
―――暴れる。
焼けた人間の美味そうな匂い。
楽しい。
まるで特上の肉の匂いを嗅いでるのようだ。
―――暴れる。
絶望と恐怖に人間共の顔が歪む。
楽しい。
まるで満開の桜を見ているかのようだ。
「アッハッハッハッハッハッハ!」
楽しい!
暴れるって……何かを壊すってこんなにも楽しいことなのか!
思うがままに暴れるだけで、軽く吹っ飛ぶ玩具たち。
ああ、このまま暴力に溺れるのも悪くは……。
『あれ、何を考えてるんだ俺?』
俺は朱天百貴。
平成生まれの七歳児で、酒呑童子の血を継ぐ半妖の転生者だ。
これは俺じゃない、俺の記憶じゃない。
気が付くと同時、俺の意識が『奴』の肉体から引き剥がされる。
どんどん離れていく俺と奴の距離。
奴は俺に振り返り、一瞬だけ目が合う。
―――テメエの流れる血から、逃れられると思うなよ。
ソイツは一瞬だけ嗤いながら言った。
「……夢?」
目が覚めると、俺はいつもの寝床にいた。
「……なんだったんだ、さっきの夢は」
ハッキリと覚えている。
鬼として暴れた感覚、鬼の技を使った感覚。君が悪い程に残っている。
あんなことをした覚えなど今世も前世もない筈なのに、まるで自分がしてきたかのように。
「アイツ、どんな顔だったっけ?」
しかし奇妙なことに、最後だけが思い出せない。
あの場から引きずり出される前に視た奴の顔だけがあやふやだった。
赤い髪でけっこうイケメンだったのは覚えているが、他は一切思い出せない。
何故だ、あれだけハッキリと感触やら何やら覚えているのに、何故最後だけ覚えてない?
難易度から見れば最後の記憶が一番残りやすい。なのに他の部分はあれだけ残っていて、何故最後はない?
「……分からん」
頭を押さえてため息をつく。
覚えてないものは仕方ない。無理に思い出そうとしても無駄だ。
余計なことは考えない、これに限る。
それに、今はもっと大事なことがある……。
「……また、やっちまった」
思い出すのは、鬼に変化して戦った記憶……いや、アレはそんなちゃんとしたものじゃない。
虐殺だ。
攻撃が一切効かない
退魔師たちの攻撃が一切効かないのに対し、俺はお遊び感覚で奴らを殺した。
面白半分で虫を殺す子供のように、奴らを踏み潰していった。
正に悪鬼と呼ぶに相応しい振舞いだ。
俺は楽しんでいた。
自分達を強者と思っていた奴らを、より強い力で蹂躙する。
俺を見下していた顔が恐怖と絶望の表情に変る様に愉悦を感じた。
奴らの貧弱な肉体を爪で切り裂き、拳と足で砕く度に快感を感じた。
最初はただあの子を助けたかったらやった。
震えて涙を流すあの子を見て、リスクを冒してでも助けなくては思ってやったんだけどな……。
「結局……ああなっちまったか」
酒呑童子は悪鬼の力だ。
悪の妖怪の力を持つものは、力に飲まれると悪の心に染まるらしい。
けど俺なら、半分は人間であり、前世は完全な人間の俺なら大丈夫だと心の何処かで思っていた。
その結果がコレだ。
「……いや、こうするしかなかったんだ」
震える体を力ずくで止め、言い聞かせるように呟く。
考えてみれば、俺は何も悪い事をしていない。
相手は俺を殺そうとした上に、川吉を傷つけ、利根川を人質にした外道だ。
奴らを殺して俺は自分の命を、そしてあの子達を助けたんだ。
当然のことだ、殺さなければ殺されていたんだ。俺は何も間違えてなんていない。
そうと決まったら、やることは一つだ。
「まずは……コントロール出来るようにならないとな」
俺は自分の掌を眺めながら決意した。
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