第26話 弐度目の変化

 あと少しで退魔師達を全滅させられるというとこで、俺は足止めを喰らわされた。

 足止めの内容は人質、しかも予想のしてない相手だった。


 本来なら人質なんてありえない。

 可能性の高い川吉はちゃんと戦いながら見張っている。

 もし人質にしようものなら即座に拾った銃で撃つ気構えでいた。

 なのにこんな結果になるなんて……!


「利根川……なんでお前が!?」

「……ごめん、百貴。心配になって、付いてきちゃった……」


 ガチリ。

 予想しない展開に歯軋りしてしまった。

 どうするこの状況。さっきみたいにスピードで誤魔化すか?

 いや、あれは向こうが油断してたからうまくいった。本当に今回もうまくいくか?


「へへッ。動くなよ、動いたらどうな」


 俺が蹴飛ばしたチャラい退魔師とは違い、キッチリした感じの退魔師。

 何故かは分からないが、俺は理解した。

 ソイツはあのチャラい退魔師よりも断然に強いと。


「流石は鬼。子供でも強い。これは中級ぐらいの強さはあるな」

「……」


 俺は無言で睨む。

 だが、内心はかなり焦っている。


 どうするどうするどうする!?

 どうやったらこの状況を打破できる!? 一体俺に何が……。


「……ぐぅッ!!?」


 今回はすぐにわかった。


 あの日とほぼ同じ感触。

 体内に熱く鋭い異物を埋め込まれたかのような痛み。


 俺は撃たれたのだ。


 一発だけじゃない。

 二発三発と打ち込まれる弾丸。

 ソレは前回と同じ、いやそれ以上に俺を痛めつける。 


 痛い。

 血管の中で針が逆立ってズタズタにされるかのような痛み。

 熱い。

 血管の中に溶けた鉄を流されたかのような痛み。

 辛い。

 血管の中で虫が俺を蝕むかのような痛み。


 その痛みに引き起こされるかのように、別の何かが引き起こされる。



「(あの姿になれば……この状況を変えられるのか?)」


 脳裏に浮かぶ最後の手段。

 それは、無理やりな妖怪化による特攻だ。


 あの姿の俺は今の状態より格段に強い。

 人質に手を出されるより早く動けるかもしれない。

 少なくとも、痛みで動けない今よりも断然マシのはずだ。

 リスクさえ無視できれば。


「(けど、大丈夫なのか? あの姿になったら……)」


 あの姿になって正気を保てる自信はない。

 けど、それでもやらなくちゃ……。



 


 ―――やるしかないだろ。さっさと俺を解放しろ! 敵をブチ殺せ!!



「ぐ、うぅぅぅぅ!」


 俺はあの時の感覚を思い出し、無理やり力を引き出した。


「…がッ!」


 ほぼ同時、俺の体に熱が迸る。

 一瞬戸惑うも、すぐに理解した。

 これだ、これこそがあの時の感覚……妖怪化だ。


 この鼓動は合図だ。

 俺自身の在り方が、存在そのものが変わる合図。

 この一瞬で俺は本来の俺ではない何かへと変わる。


 全身に走る熱い衝動。

 細胞が沸き立つかのように熱を帯び、それ自体がエネルギーを引き出す。

 筋肉や骨や神経や皮膚。肉体のあらゆる部位が。全身の細胞一つ一つに至るまで全てが変っていく。

 

 熱い。

 全身を炎で焼かれるかのような熱

 体内の血が沸騰しているかのような熱。

 しかし何故だろうか、それが不快には感じなかった。


 むしろ心地よい。

 己を縛る面倒なのからの解放感。

 己の力を十全に感じる全能感!


 ああ最高だ、早くこの力をぶつけてやりたい!


「グル嗚呼アア嗚呼あああああああああああああ!!!!」


 俺は自身の熱を吐き出すかのように、敵へ向かって吠えた。



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