第23話 行方不明の河童

「何だ? 何の騒ぎだ?」


 川に戻ってみると、何やら神妙そうな顔で俯いている。

 一目でただ事ではないと気づいた俺達はすぐさま皆に駆け寄る。


「おい、何があった?」

「あ、百貴くん。実は…河童の川吉がいないんだ!」


 河童の一人に声をかけると、慌てた様子で説明してくれた。

 要約すると、子供の一人が何処かにはぐれてしまい、皆で探したけど見つからないそうだ。

 通常なら溺れてしまったと考えるが、そこは河童。溺れるなんてありえないし、水底だろうと探せる。

 よって考えられるのはここ以外の場所に行ってしまったという事だ。


「……少し静かにしてろ」


 少し強めにいうと、皆黙ってこちらを見る。

 よしいい子だ。今からやるのは少し集中力がいるからな。


 妖気を頭部に集中させる。

 同時に頭頂部から生える小鹿のような角。

 俺の角だ。


 鬼の角には気の流れを感知する機能がある。

 もちろん個人差はあるし、使いこなすには練習がいる。

 現に俺はコレを使えるようになるのに練習の時間をかなり割くことになった。

 話が逸れた。俺はこの角を使ってその川吉くんとやらを探すことにした。

 いや、厳密に言うなら川吉ではなく、川吉が落ちたと思われる穴かな?


「……あった」


 俺は川に潜って水底……ではなく、岩の陰に手を翳す。

 そこには穴―――結界の抜け穴があった。


 結界の抜け道の見つけ方は外に出るためにかなり練習した。

 人一人分通れるような穴を見つけるぐらい楽勝だ。


「百貴、これ何?」

「……」


 おい利根川、水の中で話しかけるな。

 俺はお前たち河童と違って水の中では話せないんだ。

 というかいつの間に俺の後ろに回ってきたんだ。


「……」

「え? 何? 突然上を指さして? 上がれってこと?」


 利根川と一緒に上へ昇る。

 そして水面から顔を出して事情を説明した。


「あれは結界の穴。結界のバランスが崩れて出来る歪みだ。おそらく川吉って奴はそこから結界の外に行ったんだ」


 結界の穴に落ちることは稀なことだがある。

 神隠しなどは今回の逆パターンで、向こうから結界の穴に落ちて異界に来てしまった例だ。


「じゃあ、川吉は人間の世界に?」

「ああ、結界の外は人間がいる世界だ」

「大変! じゃあ助けに行かないと!」

「ああ、だからお前は大人の妖怪たちに知らせに行ってくれ。俺が外に出る」

「何言ってんの!? アタシも一緒に…」

「ダメだ!」


 俺は強めに行った。


「外は危険だ。鬼の俺ならなんとかなる」

「で、でも……」

「大丈夫だ。俺は稽古を積んでいる。それに何度か人間界に行ってるから慣れてるんだ」

「……本当?」

「ああ本当だ。だから心配するな」


 不安そうな目で見る利根川に、俺は出来るだけ強気で答えた。


「じゃあ行ってらっしゃい! アタシはお母さんに知らせてくる!」

「ああ」


 俺は再び潜って結界の歪みに手を突っ込み、外へと向かった。

 グワンと視界が歪み、揺れる船に乗ったような感覚。それに耐えるよう目を瞑る。

 妙な感覚が収まったと同時に目を開ける。そこには……。


「まさか、またここに来るなんてな」


 そこは、前回吸血鬼と遭遇した廃墟だった。

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