第22話 寧々の秘密の場所

 それから俺たちは川で遊ぶことにした。

 時期的には少し早いがそこは流石河童。

 寒い川の水をものとせずスイスイ泳いでいる。

 ちなみに俺は見学だ。寒中水泳も出来ることは出来るが、やろうとは思わない。

 それに、見てるだけで楽しいからな。


「(……いいところだ)」


 のどかでいい場所だ。

 周囲は木々が囲み、湿り気の混ざった涼風が肌を撫でる。

 日光の当たる岩に寝転がる。春独特の心地よい陽の光が布団のよう俺を包む。

 暖かい光と涼しい風、そして自然豊かな空気。これだけで十分だ。


「ねえ、ちょっと抜け出そうよ」

「ん?」


 そんな俺に利根川が近づいてきた。


「な、なんだいきなり?」

「いいから付いて来て、面白いもの見せてあげる」


 俺の質問に答えず手を引っ張って連れて行こうとする利根川。

 そんな強引な姿勢に俺は戸惑いつつも素直に従うことにした。

 軽々と岩を飛び越え、川の上流の方へ。

 子供が歩くにしては少し険しい道を進んでいった。


「……ねえ、なんで投げるのやめたの?」

「ん?」

「あのまま投げたら」


 歩いて数分といったところ、恐る恐るといった様子で利根川が聞いてきた。

 なんでって、そりゃ……。


「いや、可愛い子を投げ飛ばしちゃいけないだろ」


 俺は素直に答えた。

 利根川は河童、俺は鬼だ。その力の差は大きく、少しの加減ミスでケガさせてしまう。

 世話になってる家の一人娘を投げて怪我でもさせたら大変だ。


「あ、あああ! あんた馬鹿じゃないの!?」

「え!?」


 何やら動転した様子で歩を進める利根川。

 俺はそんな彼女に困惑するも、途中ではぐれるわけにはいかないので彼女の数歩後ろに下がって付いていった。

 あんなに慌てた様子でこ石だらけの道歩いて大丈夫か? 転ばなきゃいいが……。


 まあ、そんなこんなで歩くこと数分後、俺たちはやっと目的地へ付いた。

 そこで俺達が目にしたものは……。

 


「すげえ……」


 木々の枝が重なり合って天井を形成し、その隙間から明かりが照らされる。

 その奥には滝が流れ、光を反射して青く淡い光を放つ。

 辺りには百匹近くの様々な蝶が舞うかのようにたゆたっている。

 この場にカメラを持ってこなかったことを軽く悔やむも、代わりとして網膜に焼き付ける。


「……ここは皆にも言ってない秘密の場所なの。私がここを教えたのはあんただけよ」

「いいのか、そんな大事な場所を今日会ったばかりの俺なんかに教えて」

「いいと思ったからここに連れてったのよ」

「……ありがとう」


 俺たちは数分間その場でその光景を見ていた。


 けど、今思えば俺はついて付くべきではなかったもしれない。



 あの場に俺がいれば、あの事件なんて起きなかったはずなんだから。

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