第9話 守ってみせる
神社の近くにある空き地。
そこで俺と桔梗は一緒に遊んでいた。
「行くぞー! キキョ―!」
「うん、いつでも来なさーい」
合図と共に、俺は右手にあるボールを大きく振りかぶりながら投げ放ってくる。
桔梗はソレを見切ってその手にあるバットで打ち返す。
カーンと勢いよく飛ぶボール。
俺はジャンプしてソレをキャッチした。
最近よくやっている野球の真似事。
今のところ俺の勝ち越しだ。
この年では女の子の方が肉体的に強いが、俺は鬼のハーフ。
肉体勝負ではまず負けない。
「ちぇ~、今日も私の負け?」
「残念だったな。まあ俺は兄貴だし、妹には簡単には負けねえよ」
「なによソレ? 私がお姉ちゃんに決まってるでしょ!」
「誰が姉だ。同じ年だろ」
「なによ、私の方がしっかりしてるからお姉ちゃんなの」
「しっかり、している? 魚を捕まえようと川に入り溺れ、山へ探検して迷子になって泣いていたことあったのにしっかりしている?」
「嫌なことばっかり覚えてるね!」
「この手の思い出は幾らでもあるからな」
言いながらも自然口元は緩む。
ああ、やっぱり同年代の友達っていいな……。
「桔梗~、ももく~ん。おやつの準備が出来たわよ~」
「「は~い」」
桔梗のお母さん―――結花さんのおっとりした声に俺たちは元気よく返事した。
あれから二年、俺と桔梗は友達になった。
俺も桔梗も家庭の事情でなかなか友達が出来にくい境遇だったが、そこはなんとかなった。むしろその事情こそ俺たちが友達になれた要因でもある。
緋鳴鳥桔梗。
主人公より一つ上の先輩であり、原作では百を超えるお胸と素晴らしいプロポーションを持つ黒髪の和風お淑やか系ヒロイン……だった。
しかし今はまだ十代にも満たない子供。美少女であることは確かだが、お淑やかとは程遠い活発な女の子だ。
黒くて綺麗な髪はギリギリ肩まで届く長さで、普段の恰好は男っぽいものばかり。
まあ、それでも可愛いことに変わりはないが。
最初は本当に緊張した。
前世の『僕』は女の子が苦手で小さい頃はよくいじめられていたから、なかなかうまく喋られなかったけど、彼女は俺のつまらない話や遊びに付き合ってくれるどころか、すごく楽しそうにしてくれた。
まあ、『僕』なんかにそこまで付き合ってくれたのはお互いの事情のおかげでもあると思うが。
桔梗は天狗と人間のハーフだ。
父親が天狗が構成している祖域の幹部で、母親は妖怪を退治する退魔師の家系。
そのせいで人間側からは汚らわしい妖怪の子供と嫌われ、妖怪側からは憎き退魔師の子供として忌み嫌われてきた。
普通の人間ともこの事情から上手く関われない。そのせいで寂しい思いをしてきたって結花さんから聞かされてきた。
まあ、別に同情心から友達やってるわけじゃないけど。
そして俺は鬼と人間のハーフ。
別に母親が退魔師とかそういった設定はないが、家の鬼たち以外とは半妖という理由であまり関われなかった。
こういった事情から俺と桔梗はすぐに打ち解け、遊ぶ仲になった。
原作キャラと仲良くしたいっていう欲望もあった。
アニメや漫画の世界に転生したら誰だって思うだろ、好きなキャラクターと会ってみたいって。
可愛い子とイチャイチャしたり、かっこいキャラと友達になったり。
それぐらい誰だって思うんじゃないのだろうか。
そんな感じで軽い思いで友達やってみたんだけど……最後には本気になってしまった。
「(だから…守ってみせる)」
原作では彼女に不幸が訪れる。
妖怪を汚らわしい存在と捉える退魔師にとって、一族の者と妖怪の混血は許されない存在。だから結花さんの実家である退魔組織が彼女と桔梗を抹殺するために刺客を送り込むのだ。
そして、結花さんは桔梗を逃がすために死ぬことになる。
「(……させねえよ、そんなこと)」
けど俺には力がある。
酒呑童子の血筋。
まだ竹雄さんには届かないが、その辺の木っ端妖怪なら軽く吹っ飛ばせる。
この力を以てすれば、原作の流れをひっくり返せる!
「(そうだ、俺なら出来る!!)」
俺は生まれ変わったんだ。
もうダメダメな『僕』じゃない。
前世とは違う力強い肉体。
前世とは違う優秀な頭脳。
前世とは違う優れた遺伝子。
前世の俺とは何もかもが違う。
出来る、出来るんだ。
生まれ変わった俺なら、力を手にした新しい俺なら出来る筈だ。
「(やってやるさ……前世とは違うことを証明するためにもな)」
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