第8話 原作ヒロイン一号
「よし、じゃあ行くか」
その日の夕方、俺はこっそり屋敷から抜け出した。
俺の家は普段から厳重な警備体制を敷いている。
けど、夕方になると皆油断して警備網に穴が開くのだ。
脱出ルートはしっかり頭に入れた。
この一か月間屋敷を色んな時間帯に歩き回って調べた甲斐があったぜ。
空き室の窓から外に出て、溝の蓋を開けて中に手を入れる。
そこには水面のように揺らめく何か―――結界の歪(ひず)みに手を入れた。
結界。
特殊な力によって作られた壁や領域。
主な用途は敵の侵入を防いだり、領域内を守る防御壁、或いは逆に敵を閉じ込めたり封印する牢獄が大半だ。
まあ、前世で一般的に知られている結界とほぼ一緒の設定だな。
俺の屋敷はこの結界を何重にも重ねることで外界から遮断し、侵入出来ないようにしている。
瞬間、未知の感覚が俺を襲う。
景色が簿やけ、ユラユラと波に揺らされるような感覚に思わず目を閉じてしまう。
だがそれが次第に弱まって行き、何とか目をこすりながらも、目を開けたそこには先程までの景色ではなかった。
そこはとある神社の境内と、何処までも澄んだ青空だった。
「おお!!」
その光景に思わず歓声をあげてしまう。
さっきまでとの光景の違い、そして本当に瞬間移動でもしたかのような感覚に感動してしまった。
辺りを見渡してみると、人気のない神社だった。
いきなり街中にでも瞬間移動したらどうしようかと思っていたので好都合だろう。
和服の子供がいきなり現れたら怪しすぎる。
とにかく具体的な位置を確認しないとな。
じゃないとちゃんと外の世界を楽しめない。
俺が結界から出た理由は単純。ただ外で遊びたいだけだ。
家にいても何の不自由もなかったが、それでも外に出たいという思いはあった。
前世の記憶を持とうが今の俺はまだ五歳児。いくら家が豪邸だろうが庭が広かろうがずっと閉じ込められてたらストレスが溜まる。
ずっと前から外に出たかったのだが、爺や達がなかなか許してくれなかったのだ。
だからこうして強硬手段を取ったのである。
「さて、まずは何をしようか……」
「あれ? 貴方誰?」
いきなり子供のような声が後ろからかけられる。
思わずびっくりして変な声が出そうになるが、何とか平静を装う。
だ、大丈夫だ。まだ修正は可能だ。
何も慌てることはない。相手は子供。適当にごまかして逃げてしまえばいい。
問題はない。うん、そうだ、何も問題はない!
俺は何食わぬ顔で自分に声をかけてきた子供に向かって振り返る。
しかし次の瞬間、今度は俺の顔が驚愕に染まった。
小さな子供。
歳は恐らく俺と同じが相手が一つ上ぐらいだろうか。
美少女だった。
もうこれ以上にないくらい完璧な美少女だった。
それを前にして俺は口を開けたまま、ただその場に立ち尽くすことしかできない。
これが少女、緋鳴鳥桔梗―――原作のヒロインの一人との出会いだった。
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