第6話 坊ちゃまの訓練

「流石です坊ちゃま。まだ5歳なのにもうここまで」


 訓練場に付くと、爺や―――高岩竹蔵さんが拍手して俺を誉める。


 この人というか鬼は我が家の執事みたいなもので、俺の教育係でもある。

 正直、俺にとってはこの人の方が家族みたいなものだ。


「爺や、ちょっと最近ぬるすぎない? もっとハードなのでも俺大丈夫だよ?」

「う~む、確かに坊ちゃまには簡単すぎだというは存しておりますが、これ以上レベルを上げるのは……」

「けがの心配? 大丈夫だよ。少しレベルを上げた程度ならかすり傷一つ負わないよ」

「そう言われましても、既に今やっている訓練も坊ちゃまの年代でやるレベルを超えてますので……」

「いいじゃねええか爺さん」


 突然、俺と爺やに一人の男が割り込んできた。

 厳つい体格で頭頂部には牛のような角。

 刈り上げの黒い髪に無精髭を生やしている、


「今日も組手だ、坊ちゃま」

「竹雄、坊ちゃまは未だ五歳児じゃぞ? 大の大人がするものじゃない」


 この人の名前は高岩竹雄。

 爺やの息子さんで我が家の護衛長である。


「それじゃあ始めましょうか坊ちゃん」

「待て竹雄! まだ坊ちゃんは五歳じゃ! 大人が組手してどうする!?」

「そう言ってもな、親父。坊ちゃんは強すぎるから同年代じゃ相手にならねえんだ。この間も十歳の組手とスパーリングしてクタクタになっちまったんだぞ?」

「そりゃあそうじゃろうな、坊ちゃんは天才じゃからな」

「……答えになってねえよ親父」


 竹雄さんがため息を付くと同時、竹雄さんの後ろにいた部下二人が爺やを羽交い絞めにした。


「竹蔵様、失礼します」

「む、何するんじゃ!? 離せ! 儂は坊ちゃまの安全を第一に考えておるんじゃ!」

「ハイハイ。まだ仕事が残っているのでまずはソチラから片付けましょう」


 ため息をつくながら屋敷の方に運んで行く部下の人たち。


 ふ~、やっと煩いのがいなくなったぜ。

 爺やは俺にやさしくしてくれるけど過保護なのが時々うざく感じるんだよな~。


「それじゃあ改めて始めるか、坊ちゃん」

「はい」


 先ずは互いに礼。

 距離をじりじりと詰め、最初に竹雄さんが動き出す。

 右脚での前蹴りで牽制。

 俺が中段受けで流すと、すぐさま逆足で回し蹴りが飛んできた。

 上体を屈んで避けるが、回し蹴りの勢いを利用して、前蹴りした足による後ろ回し蹴りが返ってきた。

 川の水のように流れる、綺麗なコンビネーション。

 付いていけるスピードだ。

 蹴りの威力も俺が受けられる範疇にある。


 拳でワンツー。

 腰を本格的に回すものではなく、肩の動きがメインの牽制用パンチ。

 手で払うと同時、本命の攻撃が飛んできた。


 体重をかけた踵落とし。

 空手の上段受けで防ぎ、衝撃を流すことで隙を作る。 

 そして体勢が整う前に懐へ飛び込む!


 軸足目掛けての蹴り。

 しかしローで弾かれ、お返しとして膝が飛んでくる。

 俺はソレを手で受け止める……だけではなく、勢いを利用して跳んだ。

 受けると同時に竹雄さんの膝を使って跳び箱のように体を上に投げる《・・・》。

 通常なら出来る動きではないが、鬼の身体なら可能だ。


「うぐッ!」


 俺の飛び膝蹴りが竹雄さんのあごに命中。

 怯んでいる間に空中で翻り、背筋を無理やり動かして空中後ろ回し蹴りを叩き込もうと……。


「おっと」


 叩き込もうとしたら、腕で受け流された。

 それと同時に振り下ろされる手刀。

 加減した一撃だが、空中で無防備な俺には十分だった。


「へぶしッ!」


 俺は地面に叩きつけられた。

 このままへばりついていたら次の攻撃が来る。

 早く逃げないと!


 俺は腹筋のみで立ち上がると同時、後ろに下がる。


「また腕が上がりましたね坊ちゃん」

「その割には当たってませんが?」


 毎回こんな感じである。

 一撃は入るのだがその次がなかなか決まらないのだ。

 竹雄さんは入る度に褒めてくれるのだが、すぐにレベルを上げるせいで強くなってる感がしない。


「それじゃあ一段階上げるぞ!」


 こうして、俺は竹雄はスパーリングを続けた。

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