第3話 人食い鬼じゃないよな?


 どうやら俺は赤子になったようだ。


 バカらしい案だがこうとしか考えられない。


 ついさっきまでは夢だと思ったが、もう何度も眠りと覚醒を繰り返している。

 頭をぶつけたら普通に痛いし、感覚も味覚以外はしっかりしている。むしろ以前より鋭いくらいだ。

 なら、これが現実だとして、何故俺は赤ちゃんなっている?

 その結論には意外と早く辿り着いた。


 転生。

 俺は何かしらのきっかけで赤ちゃんに転生したのだ。


 原因は分からない。

 もしかしたら帰宅途中で死んだ可能性があるし、何かしらのきっかけでさっき前世の記憶がよみがえったのかもしれない。

 まあ、そんなことはどうでもいいけど。


 問題なのは今後。

 前世の記憶を持っている俺が、どうやって第二の人生を過ごすかだ。


 見たところこの世界は異世界というわけではなさそうだ。

 服装も食事も俺の知る平成文化のソレだし、部屋もまたそうだ。

 テレビがブラウン管だったり、携帯電話もガラケーっぽかったから完全にそうとは言い切れないが、おそらくここは現代に近いのだろう。


 なかなかいいことだ。 

 これがもし異世界転生で、文化レベルが中世だったら俺の第二の人生はハードなものになっていた。

 少なくともトイレを窓の外に捨てるような衛生観念の世界はごめんだ。病気になる。

 ただ一つ文句を言うなら……。


「(……俺、人間じゃないんだな)」


 ついさっき寝返りして気づいたこと。

 俺にも爺さん同様に角がある。

 そして聞いてしまった。




 この世界が鬼の世界であると。



 あれから知らない人がこの部屋に入ってきた。

 子供部屋にしてはバカに広いせいで、一気に何十人も入れた。


 そこでは誰もが頭から角を生やしていた。


 角と言っても色々だ。

 あの老人みたいに牛みたいな角、犀みたいな角、機械的な角、どれにも当てはまらないような特徴的な角……。

 大体は二本角が多かったが、五本だったり一本だったりと、鬼によって数も違うようだ。

 そんな個性的な角を持つ鬼達は俺をこう呼ぶ。


 坊ちゃんと。


 そう、俺は彼らの頭領の子供なのだ。

 鬼達のボスが人間とは考えにくい。だから自然と俺の両親は鬼であることがすぐにわかる。


 しかし……なあ?

 人外に転生。しかも鬼か……。




 今世の一族……人食い鬼とかじゃないよな?




 前世の俺は人間だった。

 人としての価値観や常識が記憶として刻まれており、当然人食いに対して忌避感を抱いている。


 漫画やアニメの設定ならいい。

 喰う喰われるの関係性は生物として最も根本的で、最も敵対関係をシンプルかつ明確に描けるからだ。

 俺もそういった話は好きだし、けっこうハマった。

 しかし、それはあくまで空想上の設定だけだ。

 現実になったらシャレにならない。


「(いや待て。まだ人食いと決まったわけじゃない)」


 そう、鬼といっても様々だ。

 鬼は種類が豊富で中には人に味方する鬼もいる。

 昔話や伝説にも正義の味方みたいな鬼がいたはずだ。


 まだ希望を捨てるには早い。

 ここはもう少し我慢して、今世が人食い鬼じゃないのを祈ろう……。

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