真夏の殿下の護衛(?)
シレア国は北に山を持ち一年を通して比較的気温が低いが、それでも夏は汗ばむ日もある。ただし公務は長袖は基本であり、城内を除いて王族が市井に出るとなればなるべく肌は見せない服装になる。
——のだが、枠にはまらない王族というのはいるもので、ことにこのシレア城主はそうである。恐らく遺伝か。
今日も城下に野暮用があるからと言って(要は市民のお悩み相談である)軽装で城を出ようとする主である。しかし、正面玄関へ続く廊下を歩いてきた従者は、向こうから来る主人を見とめて「逃すか」と言わんばかりに詰め寄った。
「殿下、今日はそう改まった公務ではないですからその格好でもいいですけれどね」
「何をそんな焦っているんだ」
近づくなり腕を引っ掴まれた王子は、やんわり手を離して崩れた袖を捲り直す。今日は普段より気温が高く、長袖を手首まできちんと着ていると風も通らず不快なほどだ。
だが飄々と応対する主人に対し、従者はその仕草を見ながらますます語気を強めた。
「殿下。暑いからって軽率に街中で第二ボタン以下まで外さないでくださいね」
「いきなり何の規定だ……」
「死者が出たらどうするんです!」
「ああ、確かに今日は暑いから危ないな」
「そうじゃなくてあんただよ!」
「ん?」
全くわからないという顔で返されるのでいよいよ腹立たしい。細身でありながら適度に鍛え上げられた体躯は、常々服に隠れているから問題ないのである。
ただそれが城下の一部の女性にちらとでも見えればどうなると思っているのか。
知らぬは本人ばかり。同性の従者にも極めてどうでもいいが、幼馴染の王女つき侍女から口酸っぱく言われている最重要注意事項の一つなのであった。
基本的に自分のことは自分でやる主人である。新任侍女が王子の身支度の世話が不要という状況は、城内の平和維持にとって実にありがたいことである。
したがって無駄な問題を街で無意識に起こさないでほしい。
***
如月芳美様とできたスピンオフを拡大しました。
蜜柑桜も如月様も、漫画などで露出度は少ない方が良い、という意見の一致を見た次第です。
ロスの胃が大変だ。
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