現代パロディ5 (裏組織 K崎)
ログインしている名前は見覚えのないものだ。少なくともシレア・カンパニーの関係者ではないし、テハイザ・グループの社員の中でもアウロラの記憶にはない。
思考がまとまらないままに画面を呆然と見つめていると、ふと声が聞こえる。スピーカーから発せられているのかどうかはっきりしない。それでも音声はアウロラの耳に明瞭に届いた。
「……この、ページは? え? 私間違って……?」
向こうはアウロラに気づいているのだろうか。気づいていないのかもしれない。しかし呟かれた言葉を聞いた途端、直感する。このよく知った声に、邪な思惑はない、と。
アウロラは思わず呼び掛けていた。
「私の声が聞こえますか? 私はアウロラ。聞こえていたら状況をお聞かせくださらないかしら」
「アウロラ、さん? あの、ごめんなさい、なぜだか入れてしまって、これ、どうログアウトしたらいいのか……」
「貴女は……ウェスペル、さん? ページはどこまで見えているの?」
「え? えっと……『データ・ログ』と『リアルタイム・モニタリング』? それから……『システム・アナリティクス』、かしら」
いずれもアウロラとカエルムが目下、調査中であるデータ収集の核となるアプリケーションだ。ただし、現段階のプログラムでは欠点があった。だがもしこのウェスペルという人物がアウロラと同様の方法でログインが可能ならば……。
「ウェスペル、とお呼びしても? お願いがあるの。リアルタイム・モニタリングシステムに入ってくれないかしら」
「……入れたけれど……」
「水色の印が点灯しているところの動きを教えて欲しいの」
そう言いながらアウロラはシステム・アナリィティクスへ入った。何故だか、ウェスペルの声はアウロラと全く同じ波長で、疑うことを許さなかった。むしろ頼るべき相手としてアウロラに語りかけてくる。そしてウェスペルの力を借りれば、アウロラとカエルムが一掃しようとしていた弊害が除けるに違いない。
この超機密複合プログラムの欠陥——それは同時に二つのアプリケーションにログインできないということだ。
「テハイザの組織メンバー……水色点灯のどれがどう動いているか分かれば、誰がシステム不正操作に関わっているか分かるわ」
「分かったわ。やってみる」
普段ならリアルタイム監視をしつつ、勤務体制及び内部情報操作の変化を辿ることは不可能だ。しかしいま、アウロラがシステムの変化をチェックしているのと同時進行で誰がリアルタイムにシステムは干渉しているのか明るみになれば、確たる証拠をもってテハイザの不穏分子を叩ける。
「ウェスペル、私のプライベートメッセージとコネクトするわ。アドレスを教えるから水色ランプの光っている名前を送って」
「え……うんと、あ、うん。アドレス表示されたみたい」
このシステムに入ったら一定のデータを動かした後の解除コードが表示されなければログアウトできない。恐らく二人同時に接続を遮断しなければならないだろう。その機会を逃さずログアウトすればウェスペルもきっと……!
まずはテハイザだ。兄が向こうにいるなら、きっと一挙に解決できる。
ちょうどその時、部屋の扉が開いて使用人の青年が顔を出した。
「お嬢様、なんか執事さんがこっち事件だから手伝えって……」
「いいところに来たわ、シードゥス。頼まれごとしてくれない?」
「はい?」
アウロラは紅葉色の瞳を光らせ、シードゥスに自分のもう一台のスマートフォンを投げる。
「例の方たち——K崎に連絡を取って。一人、お兄様のところにお迎えに派遣するわ」
※※
終わりませんでした。次回こそ……遊びすぎました、これNGですか如月会蜜柑組の皆様💦
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