現代ドラマパロディ4 ウェスペル登場
画面右上に出ている常駐アプリのアイコンが明滅し、サイドから瞬間的にポップアップが現れた。トータル・ネットワークと共に止まったはずのコア・プログラムが正常な数値を記し、何事もなかったかのように普段トータル・ネットワークが刻む数値を示していく。
明らかにおかしい。確かに自分が動かしていたのはトータル・ネットワーク外で制御できるサブ・システムだけのはずだ。社外と繋がるところほど干渉は受けにくいからこそ外部アクセスを遮断できたのだが、逆にコア・プログラムは直に影響を受けるはずである。
無意識にキーボードを打つ手が止まる。すると机上に置いていたスマートフォンが光り、兄からのメッセージが浮かび上がった。
「お兄様も気がついた……?」
一読して画面に視線を戻すと、管理者ログインへの同時ログイン数が「2」に切り替わる。どうやらアウロラが教えるまでもなくパスワードを予想したらしい。そしてまだアウロラの方では作業が途中になっていた暗号化情報の更新が見る間に進んでいった。さすがに早い。特にテハイザ・グループの関心を集めそうなところから次々にアップデートされていく。これでもし先方が一分前までの解除パスを入手していたとしても無駄になる。
「お兄様の方でやってくださるなら早いわ。それなら」
次にアウロラがすべきはネットワークの回復だ。コア・プログラムが動いているのなら恐らくどこかにエラー解決のための糸口があるはずだ。開発プログラムはアウロラが生まれる前に出来ていたはずなので仕組みは分からないが、きっと根本的なエラーがあるとしたらそこだろう。目星をつけたシステム・アプリケーションを片っ端から確認していく。
しかし、いずれにも異常はない。
——まさか、あそこに?
嫌な予感が鼓動を早め、マウスのクリックが荒くなる。あと残されるのは、実に複雑に入り組んだ機密情報のセクターしかない。アウロラとカエルムが今回のテハイザ・グループとのやり取りの間にどうにかしようとしているセクションだ。もしそこにエラーが起こっているとすれば……。
恐る恐るアプリケーションのアイコンをクリックし、起動画面を呼び出す。画面上に浮かび上がるのは金と紅の秋の美しい木立の風景のみであり、文字入力欄は皆無。一見すれば単なるデスクトップ画面か、フォト・フォルダと思われてもおかしくない。
しかしアウロラは戸惑う様子もなく、内臓カメラの正面に自分の顔を合わせた。すると鮮やかな紅葉の風景が一気に崩れて画面が強い光を発し、中心部から虹色の線が現れて螺旋を描き出す。そして次の瞬間にはデスクトップ画像が海の碧色に変わり、整然とした図表が表示された。
「ここも無事、かしら。それなら……」
図表の中に並んでいるのはそれぞれ個別のアプリケーションへ飛ぶスタートアップ・コマンドだ。社員全員のタイムスタンプと商取引の成績、テハイザ・グループと結んだ共有情報回路のマッピングなど、シレア・カンパニー内でもこれらを動かせるのは後継者であるアウロラとカエルムしかいない。
アウロラは目下最優先すべき事項、テハイザ関連のアプリへマウスポインタを動かす。
だがマウスをタップするはずの手は、中空で止まった。
——え……
アウロラがクリックする前に、フォルダが立ち上がったのだ。まるでアウロラ以外の誰かが、同時に操作をしているように。
——ちょっと待って。誰か別の人が入ってるっていうの? これは……
どんなセキュリティよりも精巧に作られた顔認証でロックされたシステムだ。アウロラとカエルムの虹彩を正しく識別し、それ以外にロックを解除する方法はないはずだ。
しかし現に最前面に現れたフォルダはアウロラが選択していないものである。そしてログイン認証を表示する上部のツールバーがぼんやりと文字を浮かび上がらせ始めた。
一文字、一文字示し出された文字を繋げて出来上がる名前は、見たことも聞いたこともないものだ。それは……
「ウェス……ペル……」
***
終わらない方向になってきてしまいましたが無理矢理何処かで終えます。
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