現代パロディ シレア・カンパニーとテハイザ・グループ
都心の中でも特に中心部、現代的な建物が並ぶ中に聳え立つ超高層ビルの入り口に二人の男性が立っていた。一人は遠目で見た人でも振り返る整った容姿であり、もう一人はそれほどまでとは言わなくとも気の良さそうな顔立ちである。
二人共に一見、オーソドックスなスーツ姿だが、間近によれば布の質の良さは一目瞭然だ。他に身につけている靴や鞄も華美でこそないものの、どんな重鎮を前にしても恥じない一級品である。
二人のうち僅かに長身な方がビルの上階へ顔を向けた。
「ここですか。この地方一帯をまとめているとかいう会社は」
嘆息を受けてもう一人が頷く。端正な顔立ちに素直な感心が浮かんだ。
「噂には聞いていたが直に見るとかなりの規模だな。しかも全層がガラス張り……最新の耐震施工か」
「感心している時ですか。派遣で来た意味分かってます? 御曹司」
「その呼び方はやめておけロス。呼び捨てでいい」
「いくらなんでもカエルムとか呼べませんね」
ゆくゆくは社のトップに立つのは事実だ。一時的に契約会社に入るとはいえ、いくら歳下でも上司を敬称もなしに呼べはしない。
そうしたロスの抗議を読み取り、カエルムは宥め口調になる。
「急に慣れろというのも無理な話かもしれないが、頼む。中の者の神経に触るだろうし、下手に目をつけられるとテハイザ・グループ内での動き方が制限される」
このたび、シレア・カンパニーの次期代表取締役会長であるカエルムが自ら協働プロジェクトのために関連会社のテハイザ・グループへ来たのは、テハイザからの一方的な冷遇を緩和し、二社間の能率的な協力関係を築くためであった。さらには業界を独占的に牛耳ろうとするテハイザ・グループが数多ある中小企業を捩じ伏せるような行動を取る中に、内部組織の状態悪化が読み取れる。業界全体の体制改善のためにもそのあたりを見極めねばならない。
「どうにかトップと話をつけたいが、正攻法では会わせてくれそうにないからな」
「だからって本社ではなくてこっちでのプロジェクト・リーダーなんて面倒な立場に……アウロラお嬢様が聞いたら何を……」
そこでカエルムは右手を上げ、ロスを制した。遮光ガラスの向こう、エントランス・ホールに人影が見えたのである。かと思えば微弱な電子音が鳴って正面扉が左右に引き、かっちりした黒スーツに身を包んだ老人が姿を現した。
老人はいかめしい顔で二人をひと睨みすると、口元だけ動かして慇懃に述べた。
「これはこれは我がテハイザ・グループ本社へよくいらっしゃった。シレア・カンパニー会長御子息カエルム様」
低く紡がれる言葉の内容とは裏腹に、老人の口調には全く歓迎の意が感じられない。濃い眉の下の鋭い眼光がそれを裏打ちする。
だがカエルムは意に介した様子も見せず、朗らかに応じた。
「恐れ入ります。わざわざ副社長がお出迎えくださるとは思いませんでした」
カエルムは丁寧に頭を下げ、にこやかに礼を述べるが、返って来たのは冷徹な一言である。
「部下を前に社内で勝手をされても困るので。これよりプロジェクト・チームへ案内しますが」
副社長は辞儀もせずに身を翻す。閉じていたガラス扉が再び電子音を立てて滑らかに開いた。大理石の床に踏み出しながら、副社長は皮肉めいた笑いを浮かべる。
「ご苦労なさるかもしれませんな。特にまだお若く恵まれてお育ちの会長御子息とあれば」
副社長の言葉は、テハイザ・グループの上層部がシレアとの協働に完全同意していないということを意味している。
果たして内部まで踏み込み、改善を図るなどできるのだろうか。
(続く)
ロンズさんからいただきました現代パロディ案、構成をいじりつつゆるゆるやります。
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