もしもシレアにハロウィンが舞い込んだら

 秋。ここシレア国が最も美しい季節である。木々の葉は様々な彩りを見せて道の上を覆い、北の雪峰山脈は織物のごとく鮮やかに飾られる。山頂が冠雪するのももう間も無くであり、人々は冬の準備に急いでいた。

 王都シューザリーンの市場にも、冬の間の寒さに耐える毛織物が店頭に並び始め、食料品店は保存のきく干し肉や瓶詰めを客に勧める。隣国からの商人は運ぶ品に海産の乾物の割合を増し、逆に冬の暖炉を温める薪を買って帰っていく。


 そんな活気あふれる清秋の空の下で豊穣祭の準備が始まる頃である。シレアでは珍しい異国の風習が城に伝えられたのは。


「はろうぃん? なにそれ」


 午前の授業で課された課題を終えた王女が休憩室に立ち寄ると、ちょうど時を同じくして仕事に一区切りをつけた兄その他の面々と出くわした。


「異国の風習だそうです。下弦の月の頃ですね。全ての死者の霊が集まると信じられているそうで、元々の習慣は違ったらしいのですが、今だと色んな仮装をしてお菓子をもらったりすると言われています」


 どうやら話を切り出したのはシードゥスらしい。聞き慣れない風習に、兄をはじめとして王城の者が興味深そうに耳を傾けていた。


「仮装? 変装じゃないのか」

「似たようなものですよ。他の国では書籍や口伝えで知られているところもありますが、シレアはないみたいですね」


 微笑しつつ、シードゥスはシレア外のものらしい書物を机に置いた。商人か外交官か、誰か親しくしている者からもらったのだろう。シードゥスの手から離れたそれをロスがひょいと取り上げて頁を捲る。


「仮装って何でもいいの?」

「何でもいいと思いますけれど、大体はお決まりの格好が在ります」

「例えばどんなものだ。人が見てわからなければあまり意味がないのだろう」

「うーん、定番は……そうですね、姫様だったら魔女とか」


 シードゥスはなにも考えずに言ったつもりだったが、その場の全員が首を傾げた。


「まじょ? まじょってなに」

「え。や、ほら、あの魔法とか使える魔女ですよ」

「まほう?」


 国に一つしかなく、不可思議な力で一秒も違わず時を伝える時計を宝として持つシレアであるが、そんな概念はない。


「知りませんか? と言っても俺だって使えないし見たこともありませんけれど、物語とかでありません? 決まった言葉を唱えれば火が出るとか空が飛べるとか」

「そんな非物理的な現象があっていいのか」

「作り話とか言い伝えで魔法って出てきませんか」

「不思議な出来事のお話ならシレアの書物にもあるけれど、『まほう』って言葉は初めてね」

「そもそも言葉一つで常人にない力を働かせることができてしまったら、国政など要らないか、崩壊するかだろう」


 散々周りに不思議な力があるものの、為政者以下、シレアの人間は超人ではない。この国には彼の国の異能という概念も無縁であった。

 諸外国から入る多種多様な書物を読んできたシードゥスにとってみれば、この知識の差は意外である。魔法も魔女も伝わらない人たちにハロウィンの習わしが伝わるのだろうか。妖精の存在が太古から語り継がれているというのに、にわかに信じがたい。


「で、でもまあ、魔女の格好はおしゃれだったり可愛かったりするので、女の子には人気ですよ」

「ふぅん。普段着ない服なら着てみたい気持ちもするけれど。男性はどんなのになるの?」

「男性は……何でしょう。魔導士もありますが、ゾンビとかミイラとか?」

「それどういうの?」

「包帯巻いたり服切り裂いたりして作るみたいです」

「包帯……って怪我したっていうことならまず手当をしなければならないじゃない」

「ソナーレさん、違います。まあ死人の仮装ですよ」

「死人だったら動かないだろ」


 従者が割って入り、もっともな意見に青年は閉口する。確かに死人は動かない。なぜ死人が動くのかと問われても、自分も物語で読み聞きしただけなので理屈を説明できるはずがない。


「それでもなにかしら皆が仮装をするのでしょう。お兄様はどんなのが似合うかしらね」


 すると、シードゥスの書物の頁をぱらぱらめくっていたロスが口を挟んだ。


「吸血鬼でいいんじゃないですか」

「それは一体なんだ? そして何故」

「一説では大層美しくて、」

「あら殿下にぴったりですわね」

「女性ばっかり犠牲にするそうですよ」

「ちょっと待てロス」


 さすがの王子もこれには憮然とするが、誰も反論できないあたりが悲しいところである。場の空気を紛らわそうと妹王女が話題を変えるために助け舟を出した。


「そうだ、お菓子を貰える、ということはお菓子を用意しなければならないのよね。あげる人と仮装する人がいるのね」

「ソナーレさんとかが多分あげる側です。『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ』って子供たちが家の扉を叩くんですよ」


 その時、休憩室の扉が威勢よく音を立てて開いた。見れば料理長が秋の果実がたんまり積み上がった焼き菓子の乗った盆を手にしている。


「そんなことを言う子供たちに渡すおやつなど毛頭ないわ! 働かざるもの食うべからず、説教と調理場の手伝いじゃ!!」


 そういう話じゃない、という言葉が喉元まで出掛かるが、この人相手にこの状況でそういう話じゃないのも目に見えている。



 ***



 すいません! 血迷いました!! ちょっと頭が疲れた状況でやってしまいました! シレアのファンタジーは基本的に超能力とかないのですが、そんなファンタジー世界でハロウィンの話が出たらどうなるかなぁと馬鹿な想像です。

 実際、どれだけ魔法とか魔女の単語が通じるかの詳細設定はしておりませんけれど。


 本編に全く関わらないお遊びだと思ってください!!


(読み返していないので、誤字脱字等あるかもしれません。勢いです!!)

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