思いつくまま気の向くまま

忍者葉桜〜番外(続?)編

『葉桜の君に——散ってこその桜花——』あの伝説の手合わせから数多の月日を経て——



「お客様の中に忍者はいらっしゃいませんか?」


 コックピットからボーディング・コンプリートの放送があった直後、長距離用大型旅客機の客室に叫び声が起こった。手荷物ラックを閉めて回っていたCAの手は止まり、早々に客席モニタをいじっていた乗客がヘッドホンを耳から離す。


「お客様の中に……」


 繰り返される問いに客席内のあちこちから囁き声が起こった。海外旅行客の口からも「ニンジャ?」とたどたどしい発音が溢れ、ある者は近場のCAを呼び止めた。


「これから何かパフォーマンスでも?」

「いいえ、そのような予定はありませんが……」


 戸惑うCAの言葉を遮り、別の放送が入る。


「機内手荷物に細長い筒をお預けのお客様。規定サイズを超えますので、受託手荷物として搭載致します。お心当たりのある方は……」


 すると後方の客席で荷物ラックから筒を取り出したCAの手を、立ち上がった男が止めた。

 驚いたCAが動きを止めた隙に、筒が乱暴に奪われる。


 その時だった。


 機内の狭い通路を何かが高速で飛び、筒の先に刺さった。

 筒の上で止まったそれが機内照明を返して黒光りする。


「そこか、妖刀葉桜」


 凛と響いたのは、先の問いを発したCAの声。

 振り返った男は、通路先に立つCAの姿をした女性を睨む。しかし女性の方は不敵な色を瞳に浮かべて鼻で笑った。


「このくらいの誘導に乗せられるとは、極秘任務を全うはできまいよ」


 腕を組みながら、女性は侮蔑的な視線を投げた。


「葉桜を国外へ持ち出してどうする気だ」

「手に負えぬものを置いておいても害になるだけだろう」


 答えた男の声は低く、異様に落ち着いている。


「御せぬからとて厄介払いか」


「妖刀を御す秘技伝承者はいないのだ。他に術はない」


 男が言い放つとたちどころに白霧が起こり視界が奪われる。客席の方々から悲鳴やき込む声が上がった。

 霧が晴れた時、男の姿は筒もろともそこには無かった。女は舌打ちし、空を睨む。


「あの馬鹿者。葉桜は我が郷に責があるというのに」


 そして女は実に優美に腕を動かし、空に線を引いた。

 瞬きののち、女の姿はそこには無かった。


「当機は間も無く、東京羽田、国際空港よりロンドンヒースロー空港へ向けて出発致します。電子機器をお持ちのお客様は……」


 一同呆然とした客室内に、機内放送が虚しく響くばかりだった。


 ****


 昨日、Twitterにてお遊びの心理テストを引いた蜜柑桜の結果は「忍者と相性の良い魔法使い」。その後、仕事を終え、さあ寝ようという蜜柑桜がスマートフォンを見ると、一件の司令が入っていた。


「『お客様の中に忍者はいらっしゃいませんか?』とCAが叫ぶシーンから始まる短編を一本どうぞ。

 締め切り今週中。」


 締め切り日以前の提出が信条の者としてはこの通達は看過できない。布団の中でスマートフォンの画面に指をスワイプし、かろうじて短編と呼べる(かも知れない)ものを連投、納品完了。

 当の『忍者葉桜』作者たる司令官ゆうすけから、番外編集掲載のGoサインが司令から発せられた。


 その後間も無くしてもう一本の通達が入る。


「【次回予告】

 妖刀葉桜をめぐる戦いは、飛行機から自由落下する夜の空中戦へ。忍術vs妖術。互いの持てる全てを賭けた戦いの決着は──?


 次回「妖刀葉桜が穿つ薮坂の薄い頭頂部」!」



 これ、薮坂さんお書きになるのですよね? (笑)



 深夜の異様な頭で出来上がりました短編をここに献上します。元のお話は「葉桜の君に」!

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