匠響子シリーズ

バレンタイン匠響子別ヴァージョン

「それでもこの冷えた手が」から始まった匠響子シリーズ、最新作『Dear K』本編第三話、二箇所のボツ案をアレンジしてくっつけます。


https://kakuyomu.jp/works/16816452218573943934/reviews/16816452218639518739


本編はこちら。恐縮ながらこれは元ネタが分からないと……の舞台裏です。


 響子ちゃん、初めはキムチ鍋と豆乳プリンの予定でした。本編、途中から……

 〜〜〜


 そう言うと匠は響子がもたれかかったままの状態で伸びをし、「じゃあつまみも作ってワイン開けるかなぁ」と立ち上がった。響子は頭の置き場を無くし、今度は手で顔を覆う。

 悩んでいたのは自分だけで、しかもとんだ気苦労で、ほとほと恥ずかしい。決まり悪く起き直りつつ、キムチ鍋なんかじゃくてやっぱりラザニアとかせめてチーズ・フォンデュとか、もっとお洒落で特別感のあるものを作れば良かったと思わずにはいられない。


「ごめんね。でもたくちゃんお店だとショコラばっかりでしょ。ここのところお店にいる時間長いし、甘いのは疲れるかもって思ってだから辛いのを」


 しどろもどろに説明しながら、あぁこれじゃ駄目だ誤解されちゃう、と慌てて付け加える。


「あ、たくちゃんのショコラが駄目なんじゃないんだよ。ほら辛いの食べるとあったまるし、その後に豆乳プリンだったらまろやかかなって」

「そんなこと気にしてたのか。別にいいのに」


 響子の心配を笑って、匠は冷蔵庫を開けながら続ける。


「ショコラ、どれが一番気に入った?」

「えっと、まだ食べてないんだけど、あ。でもお鍋食べた後だと味、キムチに消されちゃうかも」


 せめて用意を手伝わなきゃと急いで立ち上がり、響子も匠を追ってキッチンに入りながらショコラの箱を開けた。もう一度見ても、最初に目を惹くのは同じショコラだ。ルージュの花びらを摘み上げ、角度を変えて眺めまわす。


「やっぱりこれかな。あんぶらっせ・もわ」


 小さな粒の花びらを一片齧る。表面のコーティングが割れ、木苺の酸味とほのかに苦いビターショコラが、まろやかなホワイトチョコレートの甘さと溶け合った。直感的に惹かれた通り、幸せに満たされるような不思議な魅力のショコラ。


「これだけ意味、わかんなかったんだけど。うん。私、たくちゃんにもらうならアンブラッセがいい」


 すると匠は急に真顔になって振り向いた。


「響子、ほんと外さないな」

「え? なに、アンブラッセ・モワってどういう意味」


 わけがわからず響子が小走りに寄っていくと、匠は悪戯っぽく笑いながら冷蔵庫に向き直る。


「簡単にはあげません」


***


匠響子、甘くないバージョンでした! 「伝わりましたか?」の下りはここでは省略。

キムチ鍋食べたらチョコレートがぼやけちゃいますからね。


ね、甘くないでしょう。甘くないですよね?

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