第24話

「何が聖女だ……ッ!」


 これじゃあ、まるで死神じゃないか!

 誰も助けられないのに、アタシだけ生き延びろって?

 アタシが聖女なわけないじゃないか!


「セイラ、無事で戻ってください」

「エルムス、あんた……?」

「僕はここに残って、追撃を防ぎます。あなたを守るのは僕の役目ですから」


 聖職者め、嘘をつく気だね?

 最後まで一緒だって言ったじゃないか!


 ダメだ。

 どうすればいい?


 神様、嗚呼……神様!!

 頼む、頼むよ……!


 まともなお祈りの方法なんて知りゃしないけど、助けておくれよ!

 あんた、妹の時だって何にもしてくれなかったじゃないか!


「姐さん!」


 『送り狼』達が馬を回してくる。


「アタシは行かないよ! ここでアタシが芋引くわけにはいかないね」

「姐さん、それこそ無駄死にッス。お頭も伯爵も、姐さんなら後任せられるって、命張るんスから」


 そんなことわかってる。

 でも、大前提が間違ってるのだ。


「人は人が救わないと……」


 老婆の言葉が、脳裏によみがえる。

 神に祈るだけじゃだめだ。

 神とかいうのは、怠惰な奴でどんなに祈ったって願いを叶えてくれやしない。


「何が神だ、クソが! 救わねぇなら、救えるようにしやがれ!」

「あ、姐さん!?」

「聖女だなんだと適当吹かしやがって! やる気がないなら偉そうにすんな! いま、ここで、救って見せろ! ……いや、救わせろ! でねぇと、死んだあとテメェが泣くまでぶん殴ってやる!」


 泣きながら天に向かって怒りを投げつける。

 自分でもひどいやつあたりだと思うが、心の底から出た悪態を止めるすべを、アタシは持たなかった。


『──認定プロセスを開始……完了』


「あ?」


 頭の中で、意味不明な言葉が聞こえた。

 声というよりも、妙に無機質で事務的な感じの……。


『当該個体を聖女に認定。対象を救世システムの端末として定義します』


「は、なんだ、これ。なんなんだよ」

「セイラ?」

「エルムス、ヘンなんだ。アタシの頭ん中で、何かが喋ってる!」


『定義完了。続いて、要請を受諾。承認プロセス開始……承認』


 体が熱くなってくる。

 まるで自分の身体じゃないみたいに、動かしにくい。


『──神罰執行器官、展開。聖女リアクター出力安定。神罰粒子加速開始』


 背中が急に熱くなって、先ほどまでの重さが嘘のように体が軽くなった。

 なんだかよくわからないけど、何かがアタシの中で大きくなっていく。

 不明な部分は多いが、いくつかの事は本能的にわかる。


 声は『神罰』といった。

 アタシが望んだものだ。


 それがアタシの中で、渦巻き、回転し、加速し……螺旋となって今にも溢れ出そうとしている。


『3……2……1……撃てます』

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