第23話
「な……っ」
振り向くと、騎士と傭兵が大挙してこちらに進軍してきている。
何やってんだ、あいつら!
「それはこちらの台詞ですよ、セイラ」
うっかり口に出てしまっていたらしい言葉に、いつの間にか降り立ったエルムスが返事をする。
「外出するときは、声をかけるようにと伝えたはずですが? 契約違反ですよ」
「おい、エルムス……何やってんだ」
「最後までお供しますとも、伝えたはずなんですけどね?」
涼しい顔で、エルムスが笑い……魔王軍からアタシを遮るようにして立つ。
その背中が頼もしくて、泣きそうになってしまう。
「聖女殿を守れ! 陣形を維持しろ!」
モールデン伯爵が、馬上から声を張り上げると、戦車と騎馬たちがアタシの周りに集まってくる。
「おっさん! 何で出てきた!」
「忠義のために死ぬのが騎士でありますれば」
忠誠を誓われた記憶なんてない。
そもそも、そんな上等な人間じゃない。
「野郎ども、これは撤退戦だ。目的をはき違えるなよ!」
「アイサー!」
見れば、バルボ・フットが率いる傭兵団までもが来ている。
この数、ほぼ全てを動員してるんじゃないか?
武器を構える者の中には、包帯に血をにじませる者すらいる。
「バルボ! あんたまで何してんだい」
思わず声を張り上げてしまう。
「ばっかてめぇ……女一人に押し付けてして帰りました、なんて言ってみろ! 母ちゃんにどやされらぁ」
「ちげぇねぇ! 団長の嫁さんはこぇえからな!」
こんな状況でゲラゲラと笑う傭兵団。
それに苦笑いしたバルボ・フットが、戦斧を抜いて、掲げる。
「野郎ども! 胸を張れ! 声を上げろ! 自己犠牲に酔っぱらったバカを引っさらって下がるぞ! 名誉と面倒は騎士にくれてやれ!」
「アイアイサー!」
「騎士諸君、聞いたな! 忠義と民衆の為に駆けよ! 我らが聖女を、守り通すぞ!」
「ハッ!」
「だめだ! おい! 無駄死にするな!」
あたしの声が届かない。
何だってんだ、こいつらは!
スラムの女なんだよ、アタシは。
そんな価値なんてないんだよ!
「カカカッ! 愚かな人間どもめ……聖女諸共に砕き、捻り潰してくれるわ!」
ビーグローが愉快気に、巨大な棍棒を振り上げる。
それに反応して、魔王軍が動き始めた。
「来るぞ! 迎え撃て!」
くそ!
何だってこんなことになった!
アタシが黙って出てきたからか?
普通、スラムの女がいなくなれば、逃げたって思って当たり前だろ?
なのに、なんで……!
何でこいつらはここにいる!
「魔王軍が来るぞ! ランス構え!
「第一隊から第三隊は左翼、残りは右翼だ! 『送り狼』は、セイラを抱えて馬を出せ!」
モールデン伯爵が、バルボ・フットが、各々の指示を鋭く飛ばす。
もうそこまで魔王軍が迫っていた。
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