第14話

「ここは……?」

「いい場所だろ?」


 町から少し歩いた、小高い丘の上。

 すっかり傾いた赤いお日様が、アタシとエルムスを照らす。


「もう、戻ってこれないかもしれないからね。墓参りさ」


 墓標とも言い難い、目印の石の周りに買った白い花を並べ置く。

 妹はこの淡い香りの花が大好きだった。


「アタシには妹がいてさ。物心ついたときには、スラムでお互いに身を寄せ合ってた。もしかしたら本当の妹じゃないかもしれないけど、アタシは妹だと思ってたし、あの子もアタシの事を姉ちゃんと呼んでた」


 自分と似てたかな、なんて思いだそうとするがいまいち判然としない。

 記憶ってのは、残酷だ。


「いい子だったんだよ。でも、死んじまった。肺病でにかかって、あっけないもんだったよ」

「……」


 黙って聞くエルムスから花を受け取って、石の周りの花畑のように飾っていく。

 日々の食べ物に困るスラム暮らしのアタシにしたら、なかなか粋な無駄遣いだ。

 死んだ人間にしてやれることなんて、ありやしない。

 これだって、ただの自己満足だと理解しちゃいる。


「教会にさ、行ったけど……門前払いされた。だからアタシはあんた達が大嫌いなのさ」

「それは、申し訳ないことを……」


 エルムスが目を伏せる。

 お前のせいじゃないだろうに、バカな奴。


「ああ、でも。通りがかりの司祭が一人、助けてくれたんだ。これがまた擦れた司祭でさ……神様だってタダじゃ働かない、なんて言ってて……。ああ、そういうことなんだって。ただ、与えられるのを待ってるだけじゃダメなんだって、気付かされたよ」

「その方は?」

「知らねぇ。でも、アタシが差しだしたなけなしの金で、妹の痛みを取ってくれて……葬送の祈りもしてくれた。ここも、そいつと一緒に作った墓なんだ。スラムのガキなんて、死んだら路地裏で野良犬の餌になるのが相場だからな」


 花をすっかり飾り終えて、すっかり天国みたいな場所になった丘の上で沈む太陽を見る。


「さ、アタシの用事はこれで終わりさ」

「死ぬのが怖くないんですか、セイラ」

「怖いさ。怖くないやつがいたとして、そいつはまともじゃないね」


 軽く笑って見せると、エルムスが少し怯んだ表情になる。

 笑顔を張り付けた気味の悪い野郎だと思っていたが、人らしい顔もできるじゃないか。


「でもさ、スッキリはした。毎朝毎朝、メシの前に『死を想えメメントモリ』だなんて話しをされたからかもしれないけどさ、これでアタシは、死んだって悔いなく逝ける。未練がないわけじゃないけど、やるこたぁやった」


 あたしの言葉に、エルムスが眉尻を下げる。

 そんな顔する必要ないだろう?


 なぁ、エルムス。

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