第13話

 エルムスお得意の台詞を借りて、カウンターの強面を脅してやる。

 面倒なやりとりはごめんだ。


「はいよ。そっちの旦那も一緒か?」

「そうだ。バーモンに用事だよ」


 バーモンはこの斡旋所を取り仕切る顔役だ。

 こんな場所にいるからには清廉潔白な人間であるはずなどないが、それでも幾分『まとも』な感覚を持った人間ではある。


 エルムスを伴って、扉の先へ向かうと筋骨隆々とした大男が、煙草を燻らせていた。


「おう、バーモン」

「バーモンさん、だろうが。セイラ」


 にやりと笑った大男が、煙草を灰皿に押し付ける。


「見ないやつだな」

「アタシのコレさ」

「はン、色気づきやがって。それで?」


 ずしりと重い麻袋を一つ、机に置く。


「ここに金貨が百枚入ってる。こいつでガキどもに定期的に食える仕事をやってくれ」

「百枚だ? 何だ、てめぇ……ヤバい金じゃないだろうな」


 命で集めた金だ。

 ある意味ヤバいかもな。


「四割までは抜いていい。頼んだよ、バーモン」

「『バーモンさん』だ、セイラ。あと、オレをなめんじゃねぇ……取次はキッチリ二割だ」

「よろしく頼んだよ、バーモンさん」


 アタシに口角を上げてみせたバーモンが、エルムスを見る。


「おう、坊主の旦那。こいつ、口は悪ぃが見ての通りいい女なんだ。幸せにしてやってくれよな」


 バーモンの言葉に、なんだか恥ずかしくなる。


「バーモン! 馬鹿言ってんじゃないよ。アタシがいない間、頼んだからね」

「ハッ、言われなくても何とか回すのがオレの仕事だ」


 ニヤニヤ笑いのバーモンに舌打ちして踵を返す。

 ここでの用は終わった。


「いくよ、エルムス」

「ああ」


 あっけにとられたか何かしただろうか。

 いつもよりも気の抜けた様子のエルムスを伴って、斡旋所を後にする。


「まだ寄る所があんだ。付いてきたからには付き合ってもらうよ」

「承りましたよ」


 やや気を取り直したらしいエルムスを連れて歩く。


 下町で炊き出しをしている教会。

 スラムのガキどもがよく盗みを働くパン屋。

 スラムの駆け込み寺になっている医院。


 それぞれに、金貨の入った袋を手渡し……時には頭を下げる。

 下手を打てば、ここに戻ってくることはできない。

 彼岸に金貨は持ち込めないのだから、あぶく銭の如く全部使っちまおう。


「あともう少しだよ」


 やや疲れた様子のエルムスに、花屋を指さして見せる。

 残った金貨は、一枚こっきりだが……花はそう高い買い物ではない。


「あら、セイラ。いつものかい?」

「ああ。今日はありったけおくれ」


 いつも笑顔の女店主に金貨を手渡し、アタシは両手いっぱいの白い花を……持ち切れない分はエルムスに持たせて、ある場所に足を向けた。

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