死に神と俺

生徒会の仕事も早く切り上げたのだが、俺は一人寂しく帰ることになってしまった。

「良かったな。上手くやり過ごせて」

 冬香と陽菜さんがたまには姉妹仲良く帰りたいとのことなので、今日は死に神と二人で下校だ。

「そんな言い方やめてくれ。あれが俺の本心だよ」

 すると死に神は鼻で笑った。いちいち行動がムカつく男だ。

「でも死に神もありがとな。色々助けられたと思う」

「お礼は魂一つで勘弁してやるよ」

「ジュース感覚で言わないで?」

「仕方ないから気長にお前の命待っててやるよ。そのうち死にそうだしな」

 死に神は軽く笑ったのちに、本題を戻した。

「それでお前は冬香と付き合いたいんじゃなかったのか?あれで本当に良かったのかよ」

「勿論、それが一番だけど色々あって思ったのはこのままでも多分十分幸せなんだと思う」

 きっと好きな人と一緒に居られるのは、俺の中で当然のことだった。

 でもこうして陽菜さんは俺の入学という一瞬のチャンスを必死に掴もうとしたし、冬香は恋ではなかったが自分自身の成長に誰よりもしがみついていた。

 何も壊さないとは言わない。今回だって陽菜さんは辛い思いをしたから。

 だからこそ今を大事にしたいと強く感じてしまったのだ。

「……まぁ、この調子なら取られる心配もなさそうだしな」

 死に神が小さく呟く。

「どうしてだよ?冬香は可愛いからモテるよ」

「そういうのは聞き流すのがお決まりなんだよ……・」

 訳の分からないことを言う死に神だ。普段からよく分からないが。

 俺は手持ち無沙汰になり、スマホを取り出して意味もなく色々開く。

 そんなスマホの画面を突然、手でおおわれる。

「輝くん!」

「ひ、輝くん……」

 電車を待っていると、後ろから大きな声で呼ばれた。

 そこには軽く手を振る陽菜さんと、大声で注目されたことを恥ずかしがる冬香がいた。

「追いついちゃった」

「歩くの遅いので、もしかしたらなーって思ってました」

 正直、あんなことがあった後だ。ギスギスしていてもおかしくはないはずなのだが、二人にはその様子は全くない。

「そんなに私たちが普通に接してるのが気になる?」

 俺の視線に気づいたのか、陽菜さんが楽しそうに聞いてくる。

「いや、別にそういうのじゃ……」

 陽菜さんは俺に一気に顔を近づける。

「いや……やっぱり気になります」

「だよね……嫌いになったのかと思ったよ」

 陽菜さんは俺から少し離れる。

「私決めたの。絶対に幸せになる」

 陽菜さんは眩しいくらいの笑顔で言う。

 あまりにも漠然として、正直自信満々に言えるほど大きなことを言っていない陽菜さんに、俺は思わず笑ってしまう。

「な、なんで笑うのよ!」

 冬香すらカバンで顔を隠して笑っている。死に神は言うまでもない。

「すみません、陽菜さんってなんやかんやでもう少しまともだと思っていたので」

「酷いこと言うなー……何とでも言いなさい。絶対に幸せになって私を振ったことを後悔させてあげるんだから」

 彼女の目には闘志が灯っていた。俺はその表情に笑みをこぼす。

「やってみてくださいよ。俺も絶対に好きで良かったと思えるような人間になりますから」

 売り言葉に買い言葉、死に神が言うにはまさに姉弟にしか見えない姿だったらしい。

「私も……いるよ」

 滅茶苦茶不満そうな顔をした冬香が袖を掴む。

「あぁ、ごめん冬香。陽菜さんがあんまり面白いこと言うから」

「そろそろ泣くわよ?」

「別にいいもん……!」

 いきなり冬香が手を掴むと、繋いだ手を空に浮かせた。

「何するんだよ……」

 いきなり訳の分からないことをされたとか、顔がめっちゃ近いとか、隣から香るいい匂いとか、手がビックリするくらい柔らかいとか、あとついでに周りの目なんかで混乱する。

「輝くん言ってくれたから……私のこと大事な人って」

「言ったから!だから手を放して!」

 俺がそういうとゆっくりと冬香は手を放してくれた。

「それってさ……もしかして告白なの?」

 陽菜さんが白々しい目で俺を見る。

「……!そうなの?」

 そして一気に恥ずかしくなったのか、顔を赤くした冬香の視線が俺を見つめる。

「そうなのか?」

 死に神もニコニコしながらこちらを見る。ただし俺の首元に鎌を沿えて

「そうなんですか?」

 わざわざ言った陽菜さんまでニヤニヤして聞いてくる。

ここで俺が取れる選択肢なんて最初からなかった。

 俺は激闘のここ最近を思い出しながら、天を仰ぐ。

 そして覚悟を決めて言う。

「冬香のことは好きか嫌いかなら……勿論、す……・」

 最後まで言い終わる前に、俺の意識は久しぶりに俺の元から離れた。

もしかしたら進展あったし、行けるかと思った。

「ちょっと輝くん!?」

 陽菜さんが驚いた様子でこちらを覗き込む。

 冬香の方は、相変わらず顔を赤くしている。何となくだがさっきよりも赤い気がするが。

「この調子でそもそも卒業まで生き残れるのかよコイツ……」

 死に神も完全に呆れてしまっている。

 あぁ、もう少しだけ俺の幸せは遠そうである。

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物静かな可愛い幼馴染に好きだって伝えたいけど、伝えると多分物理的に死ぬ 山芋ご飯 @yamaimogohan

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