告白の意
俺はただ走っていた。。
「なんかいつも冬香に振り回されてるな」
「今回は……物理的だけどな……」
息を切らしながら冬香が居るであろう走る。
そんな俺の横でフワフワと浮いている死に神がフラッと聞いてくる。
「……あれで良かったのか?」
「あれって?」
死に神の言うのは、おそらくあんなにこっぴどくという意味だろう。
「でもさ……曖昧にしたらお互いに傷つくだけだと思う」
「でもこれから冬香と話したら物理的に傷つくの理解している?」
「……今から考える」
「うわぁ……思春期特有の無鉄砲なの嫌だわぁ……」
別に告白するわけでもないし、多分大丈夫だろう……多分
「その顔は今更になって不安になってきたのか?」
「ちょっとだけ……」
こんなことを話しているうちに、冬香から連絡が入った。
『今、部室棟でアンケート用紙集めてる』
「ボ、ボランティア部かよ……」
さっきまで居たのが西棟一階の一年生の教室。
しかし今から向かうことになったのは、東棟の四階の端になりそうだ。
どうやら他のメンバーと分担して学校を回っているらしく、今は文化部棟を回っているらしい。
俺が部活棟に行くと、ちょうど美術部から冬香が出てきたところだった。
「ん……輝くん用事終わったの?」
かなり多い紙束を持った冬香は怒る事はなく、俺に気付いて近づいてくる。
「ごめんな。今から手伝うから」
彼女が持っていたアンケート用紙を代わりに持った。
「あ、ありがとう……」
しばらく冬香の後ろを付いていくが、お互いに会話はない。
俺も目線を冬香と反対に置いてしまっている。
「あとどれくらい?」
「アンケート?あとは書道部とボランティア部かな」
「下田先輩書いているのか……?」
「覚えてないけど……書いてたら部室に置いてあると思う……だって」
「相変わらずだな……まぁさすがに慣れたけど」
最早、当たり前のように鍵のかかっていない部室の扉を開けた。
「やっぱり鍵掛かってない……」
「多分……この机の上だよね?」
よく分からない下田先輩のプリントや、敷原先輩の持ってきてくれたお菓子や漫画で机は恐ろしいことになっている。
「自分の椅子の前の机だけ綺麗にしてる弊害がガッツリ出てるな……今週中に絶対に片付けの日作るか」
「そうだね……さすがに探すの大変そう……」
俺と冬香は小さくため息を付きながらも、机の上に手を伸ばす。
「あとで見つかったら面倒だし、とりあえず探してみるか……」
仕方なく机の端から順番に探し始めた。
いつの間にか話しづらい空気もなくなり、会話が広がる。
「面白いアンケートとかあった?」
「家庭科部が……旦那が欲しいって」
「料理以前に常識学べって返しとけ」
「軽音部はバンド内恋愛を許可してほしいだって」
「A〇Bか?」
「他にはサッカー部がマネージャーをください」
「家庭科部紹介しておきな」
ボケでもなく、素で淡々とアンケートの内容を教えてくれる冬香の勢いに少しだけ疲れてしまう。
「やっぱりこの学校って変わった人多すぎだろ……」
「本当にね……私もたまに疲れるよ……」
「え?」
「え?」
こういうところも含めて変わっていると確信できる。
笑いの勢いが落ちると、少しだけ再びの静寂が戻る。
すると今度は珍しく冬香の方から話を振ってくれた。
「それで用事ってやっぱりお姉ちゃんとだったの?」
俺はあくまで冷静を装って耳を傾ける。
死に神の方に関しては思いっきり反応している。
「……色々話してきた」
「そうなんだ」
「うん……本当に色々」
冬香はそれ以上は聞いてこない。
分かっていたことなのだが、少しだけ焦る。
それでは俺が困るのだ。
「断ったよ」
冬香は大きく反応することはなかったが、一瞬身体をビクつかせる。
「そう……なんだ」
多分、冬香が驚いたのはお姉ちゃんほどの人はなかなか居ないということだろう。散々冬香の口から聞いた。
「ちなみに理由聞いてもいい……?」
「勿論、陽菜さんのことは好きだけど、恋愛対象としたら……どうなんだろうって思っちゃったんだよ……」
「……私がいなかったら変わっていたかもしれない?」
俺は一旦、顔を上げる。
「そんなこと言うなよ」
「例えばの……話だよ」
俺は少しだけ考える。
「……そもそも冬香がいなかったら陽菜さんとも会ってないだろ」
しかし冬香は大きく首を振る。
「……違うの」
冬香の顔はだんだんと暗くなっていく。
「もう少し私がちゃんとしてれば輝くんはもう少し色んな人と遊べただろうし、もしかしたらお姉ちゃんとだって違ったかもしれない」
冬香が珍しく早口で喋る。その言葉一つ一つに魂が込められているかのような勢いで俺は思わず押されてしまう。
確かにその通りかもしれないが、そんなことただの結果論に過ぎない。
「そんなこと言うなよ。俺がその時に冬香と一緒に居たいと思ったから居たんだよ。後悔した方が少ないに決まってる」
勢いで言ってしまった言葉に、俺は後悔はせずとも恥ずかしくて顔が真っ赤になるのが分かった。
だが契約の痛みはない。それほどまでに冬香の考えは凝り固まってしまっているようだ。
「それなら……私と付き合えたら付き合うの?」
死に神が咳き込む。お前呼吸要らないだろうが。
しかし俺の額には汗が噴き出す。
俺が死に神の方を見ると、態度を切り替えて俺の方を睨む。
「困ったら俺の方見る癖やめろ」
すぐに目線を逸らして部屋の隅に逃げられた。
「冬香は大事な人だよ!それ以上でもそれ以下でもなく、大事なんだよ。それじゃあダメなのかな……?」
死に神が睨むのを止める。
「ダメじゃないけど……でも……」
なんでだろうか、無性にイライラしてしまった。
別に冬香にイライラいるわけではない。自分にイライラしているわけでも多分ないというのが何となく分かる。
「自分がどうするのが正しいかは自分が知ってるだろ?」
俺はそんな死に神の言葉に上手く返事できない。
頭に血が上って、ロクな思考に移れない。
「やっぱり……輝くんはお姉ちゃんと……」
「いいんだよ!」
俺は冬香を抱きしめる。
「えっ……ちょっと輝くん?」
俺の混乱した行動に冬香は動揺する。
だが別に嫌がる様子はない。
「俺はそれで幸せなんだよ。それで冬香が幸せじゃないって言うなら間違ってる」
もうここまで来たら言いたいこと言って消え去りたい。
「文句あるかよ!」
「そんな……文句なんて……」
「じゃあ……冬香は幸せか?」
冬香はこらえていた感情を爆発させた。
それは泣くとか叫ぶではなかったけど、彼女にしては珍しいくらいの大きな声だった。
「私は……幸せ」
今後もなかなか見ることは出来なかった眩しい笑顔が綺麗だった。
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