キャッキャッキャ

しかし主人公とはとても似ているとは思えないのだが、死に神の言葉には自信があってちょっと不思議だった。


「うん……めっちゃ良かったな。記憶消してもう一回見たい」

「私も……こんなに面白いと思わなかった」

 言葉自体は楽しくなさそうな冬香だが、雰囲気からして心の底から楽しかったのだろう。

「人間の作るものもやはり面白いな……まぁだが隣でもっと面白いものを見てるせいで所詮は作りものだと思ってしまったな」

 死に神もなんやかんや満足していているのか、長々と批評をしている。お金払ってないのに何を語っているんだ。

 俺たちは昼食を食べ終わり、またブラブラと街を歩いていた。

 しかし集合時間よりも早くに来たために、やる予定だったことも早くに終わり、そのまま解散することになった。

「それじゃ、また明日」

 しかし帰ろうとする俺の腕を冬香に掴まれてしまった。

「……輝くんが良ければでいいんだけど、うちに遊びに来ない?」

 俺、そして死に神はそんな誘いに思わず驚いてしまう。

「俺は勿論いいけど、家の人は大丈夫なの?」

 お父様とかお父様とか

「ママもお父さんも今日はお出掛け。お姉ちゃんは分からないけど、多分部屋にいると思うから大丈夫だよ」

「だったら……」

 俺は冬香の後を付いていきながら、死に神にしてやったりという顔をする。

「いや、お前今日何もしてないだろ。完全に冬香のペースに飲まれてるだけなのに気づけよ」

「何でもいいよ。少しでも心開いてくれたのなら」

 俺はわざとらしく歯を見せて笑顔を見せる。

「そうですか……」

 冬香の家の外見は小さい頃に来ていた時と何も変わっていなかった。

 しかし家の中は、何というか年頃の女子二人と、実年齢測定不可の女性(楠母)がいるからか、きれいになっている気がする。

「あれ?輝くん?」

 ちょうど玄関を開けると、陽菜さんが階段を上がろうとしているところで、俺たちに気付いた陽菜さんはこちらに歩いてくる。

「お姉ちゃん!服!」

「え……?服?」

 そう言われて気にしていなかった俺も、思わず視線が陽菜さんの服に降りていく。

 上はかなり薄めのキャミソールとよく見れば下着が透けてしまっている。

 下に関しては……とりあえず履いているとしか言えなかった。

「あー……お風呂入ってそのままだった……ちょっと待ってて。輝くんもごめんね?」

「いえ!こっちこそすみません!」

「輝くんも……見ないで!」

 珍しく怒った様子の冬香が俺の視界を手で覆ってしまう。

 ドタバタとした大きめの音が鳴った後、俺の視界を覆っていた手はどかされた。

「本当にごめんねー……それで輝くんどうしてここに?」

 人前に出られる程度になった陽菜さんは俺たちが玄関に上がろうとしていると、ニヤニヤしながら聞いてくる。

「ちょっと映画見てきました」

「へぇ~デート?」

「別にそういうのじゃ……」

 死に神に叩かれるが、そんな「デートです」なんて言える勇気があれば今頃とっくに行動に出ている。

「ふーん……」

 すると陽菜さんは俺のバックを見て考える。

「でもその付けてるストラップってカップル限定の物だよね?」

 相変わらずの綺麗すぎる笑顔を陽菜さんは見せてくれる。

 ただ今に関してはひたすら怖い。

「ちょっとお姉ちゃん!早く部屋行ってよ」

 ここでようやく冬香が怒り出す。

「なんで我が家なのに行動制限されないとなのよ。ちょっとお話しするくらいならいいでしょ」

 しかし弱い腕の力で必死に陽菜さんを押して、部屋に押し込むと、すぐに冬香は帰ってきた。

「ごめんね……先に私の部屋行っててくれる?」

「分かったよ」

 最後にこの家で遊んでから、かなりの年月は経っているはずだが、今でも家の方向を覚えていたように、冬香の部屋の場所も覚えていた。

「おぉ……」

「部屋に入って、いきなりそんなこと言うのはそこそこキモイぞ?」

 そんな感想が出るくらいには冬香の部屋は変わっていた。

 昔は小学生らしく図鑑やら女児向けの児童書が多く、一部子供向けの小説があるだけで大人っぽいとすら思っていたが本棚は、すっかり高校生らしい参考書や大人向けの小説が並べられた本棚になっていた。

 ただ部屋の基調は変わっておらず、何故か安心感を覚えてしまった。

「よし輝、家主のいない今のうちに弱みになりそうなものを探すんだ」

「政治家みたいなことするな」

 別にアイツの弱みくらいならいくつも知っているつもりだ。

 どうしてもソワソワして落ち着かずに、何度も腰の位置を動かしていると下の方から歩いてくる音が聞こえてきた。

「お待たせ、紅茶くらいしかなかったけど良かった?」

「……!あぁ、ありがと……」

「何見てたの?」

 別にやましいものではなかったが、とっさに驚いて隠してしまう。

「……えっち」

「違うって!」

 しかし俺は慌てて手に持っていたものを出す。

「一人の老人と七つの世界……懐かしいね。一番最初に輝くんが気に入ってくれた本……だったよね?」

「この本読んでから俺の方がむしろハマっちゃって、この作者の作品全部揃えたんだよな」

「多分私たちが一番好きな本だよね……」

 そんな話をしながら冬香はカップに紅茶を注いでくれる。

「というかこの部屋ベッド置いたんだな」

 その言葉を聞いて冬香は動きを止め、死に神は面白そうだと一瞬で俺の方に近づいてきた。

「その話は……」

「最後に遊びに来たときは小6の時だったか。あの頃はお母さんと一緒じゃないと寝られないってお泊りも出来なかったんだよな」

「聞こえないー……」

 俺の話を最後まで聞き終わる前に、冬香は目を閉じて耳を塞いでしまった。

「黒歴史はそれくらいにして、久しぶりに昔のこととか話そうぜ」

「そうだね……私だって輝くんの恥ずかしい話いっぱい知ってるもん」

 俺たちはアルバムを引っ張り出して、幼稚園、小学校、中学校と思い出を話した。

 お互いに関わりが薄かった中学時代の話は特に楽しかった。

「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」

 死に神も飽きて寝てしまった辺りで、俺は立ち上がった。

「うん、場所分かる?」

 大丈夫の意味も込めて、後ろ向きに手を振った。

 一階に降りて、トイレで用を済ませると、ちょうど一階のリビングから出てきた陽菜さんとバッタリ会った。

「輝くんだ。トイレだった?」

「そうです。陽菜さんは休憩ですか?」

「うん、勉強ばっかりでつまらない休みだよ。私も二人みたいに青春してきたいなー」

「ただのお出かけですから。別にそういうのじゃ……」

「そっか……そういうのじゃないんだ」

 別に陽菜さんのことは苦手ではない。ただどうしても距離感が難しい相手だし、何よりも中学の時のことを思い出すと、余計に気まずく思ってしまう。

 しかし今の彼女は、そんな気まずい雰囲気をさらに助長させるような不思議な雰囲気を纏っていた。

 そうまさにあの時のような

「輝くんってまだあの時のこと気にしてるから何となく私のこと避けてるの?」

「それは……!……まぁ少しだけ」

「そっか、そうだよね。ならこの際ハッキリさせちゃうよ」

 そう言った陽菜さんの目はまるで「あの告白してきた日」のような目をしていて……

「私はまだ君のことが好きだよ。まだ諦めてない」

 突然に言われたその言葉に、俺は何も言えないまま陽菜さんが去っていくのを待つしかなかった。

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