第4話・2月17日
昨日の放課後、紺藤から受けた言葉は、頭をドカンと殴られたかのような衝撃的な事実だった。
「お前は、中学2年の時に遭った事故直後に、俺たちのことを忘れちまったんだよ」
事故の後遺症。記憶障害。そんなまさか。
「そんなはず……ないよ。だって、事故以前の両親のことは覚えているし、クラスメイトのことも覚えているし……」
「でも、お前は病院で確かに言ったんだ。俺たちに『お前達は俺の知り合い?』って」
それは、事故直後だったから意識が朦朧としていたのでは?
それに、俺の中では、お前達の存在は知っているし、辻褄はあっている。中学の頃の紺藤和樹は同学年の他クラス。テストの点数も高くて成績優秀。他の誰にも知られてるくらいの有名人。空気のような俺にだって、近藤という奴がわかるほどの存在感だ。
「美冬含めて俺達3人はつるんでよく遊んでいたのに。そこだけ忘れてるんだ」
「そんな記憶なんてない! 美冬ちゃんとは14日に初めて話したし、名前だって知らなかった!」
言った言わないならぬ、知っている知らないの話になり、押し問答になる俺達。マクドナルドで高校生が話す内容ではない。
「俺は、俺たちのことを忘れて欲しくはなかった。でも、病院の先生に言われたんだ。無理に思い出させようとするなって」
それは、どうして?
「とにかく、それもあってお前は俺達には話しかけて来なくなったし、距離を置くようになった」
『距離を置くようになった』。その言葉に既視感を感じる。それは、俺が家族に対する態度だ。
事故以前は、一般的なごく普通の家庭だったというのに、事故後、家族は一転して俺を構いたがりになったのだ。
それが俺にとってはうんざりしてしまって、家族どころか、クラスメイトとも話すのが嫌になってしまった。それまでは、多分、普通に話したりしていたと思う。
いや、どうだろう。
事故前の俺は一体どうしていた?
頭痛を覚え、俺はこめかみを指で抑えると、紺藤は気にかける素振りを見せる。わざとらしくなく、それは、心から心配している様子だった。
「……だから、俺はお前が俺達に関わらない方がいいんだと思って、俺達も話し掛けないようにしていたんだ」
「……じゃあなんで、お前の妹は俺のところに来たんだよ」
「それは……美冬にしかわからねぇと思う。俺は、お前に恋愛感情があるとは思ってなかったから」
「余計にわからない……」
恋愛感情がないなら、どうして。
「理由があるとすれば、だけど」
「うん?」
紺藤は話す。
『事故当日は、お前と美冬が一緒だったらしい。美冬が言うには、お前が美冬を庇い、車に接触した、と話している』と。
「庇われたことへの罪悪感なのか、はたまた、ヒロインじみた気持ちに浸っているのか……そんなところかねぇ」
ズキズキと痛む頭をに耐えかねて、俺は話を切り上げることにした。
「わかった。とりあえず、概ね把握した」
だから、とりあえず、今日はこれくらいにしよう。
「正直、俺は今混乱しているし、お前達の話をすぐに信じることはできない」
とはいえ、嘘を言っているとも思えないんだよなあ。
「だけど、整理がついたら、また話しを聞かせてくれよ」
俺がそう話すと、紺藤は明らかに嬉しそうな表情を見せた。
「あぁ……! あぁ! また話そうな!」
15日に話しづらそうにしていたのは、俺から距離を取っていたから。違和感があったのは、俺自身を気遣ってあまり知らない関係の風を装っていたからなのだろう。
陽キャとは付き合えない、そう思っていたが、紺藤は案外悪い奴ではないのかもしれない。
そう昨日のことを振り返りながら、今日も図書室で時間を潰すのだった。
バレンタインデーから始まる恋 北守 @midlus
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