第2話・2月15日
「お前、美冬とどういう関係?」
バレンタインデー翌日。俺、こと深山孝文は悩んでいた。
昨夜、バレンタインデー当日に人生初めて好意的な告白を受けたのだ。いじめられこそしないものの、空気のような存在でもあった俺は、初めて人に認知されたかのような気がしたのだ。いや、空気のような存在になりたかったのだ。
「孝文くん、さっきのお友達女の子だったの!?」
下から動揺と歓喜の気配を孕んだ女性の声が聞こえた。
「もしかして、彼女!?」
バタン、と俺の部屋の戸を開けて、俺の同意を得ずに入室したのは、俺の母親だ。
やりたいことをやらせてくれようとするところは良い母親なのだが、いかんせん、幼い頃からベタベタに世話焼きで、構いたがりなのだ。
「バレンタインデーだもんな!? 孝文!」
そう言って後追いして来た父親も、大体そう。俺が中学2年生の頃に、事故で怪我をした日から夫婦揃ってこうなってしまった。
「あぁ、いや、そんなんじゃないよ……」
多分。心の中でそう付け加えるが、告白を受けたことには変わりない。
それにしても、どうして彼女は俺のことを知っているのか。ただそれだけが引っかかっていた。紺藤和樹がクラスメイトだからか?
バレンタインデーに浮かれてみたものの、いざ告白を受けると、告白を受けたことよりもなぜ俺のことを知っているのか、という方が気になってしまい、ドキドキするとかそれどころではない。
「明日、紺藤に聞いてみるか」
体育会系サッカー部、陽キャのあいつと話すのは正直気が進まないが、致し方ない。横でああでもないこうでもないと言っている二人の騒ぎを聞きながら、決意した。……のが昨夜の出来事である。そして、いざ彼女のことを聞きに紺藤和樹の元へと行った、というより朝俺を見かけた瞬間に連れ出されて、冒頭のセリフを投げかけられたのである。
「ええと……どういう関係と聞かれても……どういう関係なんだろうなあ」
俺が聞きたいんだよ、それは。
「昨日、バレンタインデーにチョコレートをあげたい人がいるから練習に付き合って欲しいって言うから、付き合ったんだけどよ。聞いてみりゃ、お前の名前が出てきてびっくりしたじゃねぇか。お前みたいな地味な奴のどこがいいのか知らねえけど」
酷い言い様だ。
「俺だって知りたいよ。そもそも、紺藤の妹と接点なんてないし、お前とも今初めてまともに話してるじゃないか」
そう話すと、紺藤は少しだけ目を泳がせた。
「ん?」
何か隠している?
「とりあえず、美冬って言う名前なんだな。有難う、名前も知らなくて」
「……」
何か言いたげな目をして、こちらを見てくる。言いたいことがあるなら言ってくれ。隠したいことがあるなら、もっと隠せ。
「お前、本当に妹のこと知らねえの?」
「なんだよ、どういう関係とか聞いてきたり、知らないのかとか聞いてきたり……」
「……いや、だってよ……お前、俺が話しかけても素っ気ないじゃん?」
「素っ気ないってなんだよ」
こちとら、陽キャとは分かち合えないんだよ。
「前はもっと……いや、いいわ。お前はそういう奴だ」
なんなんだよ……いちいち、気になる態度取ってくるなあ。妹の連絡先知りたかったけど、この様子じゃ教えてくれなさそうだな。
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴り響く。
「お、次、世界史か。あの先生緩いから、サボろ」
「優等生でもサボるとかあるんだ?」
「話し聞いてるふりして、苦手な英語やる」
と、ドヤ顔で言ってくる。二重の意味で「やってますよ」アピールがすごい。優等生はやっぱりやることが違うな。でも、そうだな……俺も借りてる本でも読もうかな。俺は、そう思いながら、2月15日を過ごした。
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