第79話
「ところでシナリスには国から声掛からなかったの? その、正式な軍人候補として」
想次郎はふと思ったことを質問する。想次郎に敗北したとはいえ、彼は例の決闘場の出場者の中ではかなりの実力者の筈だ。
「とっくに掛かってるっつーの! しつこいくらいだぜ!」
想次郎の問いがやや気に障ったのか、シナリスは声を荒げて答える。
「でも軍に入らないってことは、あまり給料がよくないとか?」
「金払いはそれなりに良いらしいぜ? 何せ命を懸ける仕事だからな。でもな、俺は苦手なんだよ。ああいった自由のきかねぇ仕事は」
「ああなるほど……」
この世界の国や軍の仕組みについてよくわかっていない想次郎だが、シナリスのその言い分だけは妙に納得できるものだった。
「そんなに参加したいんなら、お前ひとりで行けばいーじゃん」
退屈そうに頬杖をついていたナツメは、そう言って睨みを利かせる。
「俺一人じゃあダメなんだ」
「え? どうして?」
今度は想次郎が尋ねる。
「参加には少なくとも四人以上編成のパーティじゃねーと受け付けてもらえねー。まったくもってメンドーなことによ。まあ、体裁みてーなもんだろーな、戦力に一定のハードル設けんのは。一応は国からの正式な募集だからな。その辺の金のねぇならずもんかき集めて捨て駒にしたとなっちゃぁ心象が良くねぇ」
「そういうもの……なんだ……」
「とにかく、勝手に行って勝手に狩ったところで国の正式な手続きなしじゃ金は一銭も入らねー。タダ働きは御免だ」
「四人……」
「そうだ。だからいずれにしてもあと二人、なんとかしなくちゃな」
シナリスはさも当たり前のようにさらっと言った。
「ちょ、ちょっと待って! ナチュラルに僕が勘定に入ってない!?」
「あ? なんだ、やらねーのか?」
「やるなんてまだ一言も言ってないよ!」
想次郎は慌てて拒否した。
「そもそもシナリスには他に当てはないの?」
「生憎、俺は嫌われもんだからよぉ」
シナリスは何故か得意顔でそう言った。
「あまり胸を張って言うことじゃないような……」
「ふん、魔物に比べれば大した嫌われ具合じゃないだろうな」
ナツメは何故か見下すような態度でそう言った。
「何でそこで張り合っているの?」
「つまり仲間外れのぼっちだから想次郎を誘ってるんだろ? 寂しいやつだな」
ナツメはつまらなそうにふんっと鼻を鳴らす。
「んだとぉ? このゾンビ猫娘が! おっぱい揉みしだくぞ!」
「やんのか! このぼっち野郎! こいよっ! お前もあたしらみたいに継ぎ接ぎにしてやんよ!」
「二人とも落ち着いて!」
隙さえあれば喧嘩を始めようとする二人に辟易気味だった想次郎は、とりあえず今日は返答を保留して宿に帰ることにした。
「じゃあ、締め切りは三日後らしいからな。良い返事期待してるぜ」
シナリスは背を向けながら億劫そうにひらひらと右手を振り、酒場を去って行った。想次郎とナツメも帰路につく。
「さっきの話、無理しないで断っとけよ」
街の出口付近の別れ際、ナツメは想次郎にそう助言する。
「ただもし参加するとしたら、想次郎の頼みならあたしは協力しても良いからな! 遠慮なく言えよ!」
「あ、ありがとう……ナツメ。その時はお願いするよ」
「にひっ」
そう言って尖った歯を見せながら笑みを作ると、ナツメは街の外へ去って行った。
ナツメを見送った想次郎はエルミナの待つ宿へと急ぐ。
「魔王幹部の配下……」
足を止めないまま、想次郎は確認するように口に出す。
先程までは断ることで精一杯な想次郎だったが、店を出てからというもの、何かが引っ掛かり、ずっともやもやとした気分だった。
「ドラゴン……」
ゲームプレイ時にろくにストーリーを進めてこなかった想次郎だが、気まぐれで一度だけ中途半端にストーリーを進めてみたことがある。その際に最初の街でのボス戦としてドラゴンと戦ったことがあった。無論目的がエルミナと会うことになっていた想次郎はそれ以降ゲームを先に進めた記憶がない。
薄っすらと想次郎の記憶に残っているのは、ゲーム中であってもかなりの迫力だったということだ。
「ドラゴン……かぁ……。ここにきて今更ゲーム内容に沿った展開なの……か?」
そう考えながらも、これまでこの街で経験したことは、どれもこれも悉くがゲームとは異なることばかりであった。
エルミナとの共同生活。ナツメとの出会い。決闘場での一件。シナリスという男との闘い。それらはこの世界で何かが起こる度に想次郎が考え、その度に選択してきた果ての結果だ。少なくとも想次郎がプレイしていたゲームのイベントには存在しないものだ。
だがもし、そのドラゴンとの戦いが予め定められたものだとしたら……。
「それ以前に何か……、とても重要なことを忘れている気がする…………」
------------------フレーバーテキスト紹介------------------
【モンスター】
ドラゴン族C5:ドラゴン
かつては神族だった存在が悪魔に絆され堕落し、魔物となった姿。既に純粋なドラゴンの血は絶えてしまっているが、現代において一般的には僅かでもその血を引き、特徴である一対の翼と鋭い牙を備える魔物を総称として〝ドラゴン〟と呼ぶ。
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