第46話
それは花を模した繊細な銀細工が誂えられたネックレスだった。
トップの細工にはエルミナの瞳の色と似た深紅の宝石が嵌め込まれており、想次郎のような男子高校生の拙い感性でも彼女によく似合うことが想像できた。
「エルミナさん……このネックレス……」
「別に見てません」
想次郎が何か聞く前に被せ気味に即答するエルミナ。そして少し遅れてから自信が軽く墓穴を掘ったことに気が付いた彼女は、白い仮面の下で顔を赤らめた。
「これ、エルミナさんに似合いそうです」
想次郎は彼女の面目を保つべく、気付かないフリをして改めてそう言い直す。
「…………」
エルミナからの返答はない。
想次郎がネックレスの値札を確認すると、5
例によって未だにこの世界の貨幣価値や金銭感覚が身に付いていない想次郎であったが、宿屋での3
「僕、頑張ってこれをエルミナさんにプレゼントしたいです……。いえ、してみせます!」
想次郎はたった今決めた目標を宣言する。
「い、いりません! さっきから勝手なこと言わないで……」
つい声を荒げてしまったエルミナはハッとなり、慌てて声量を落とす。
「別にこんなもの、興味ありません」
「良いんです。僕が興味あるんですから。きっとエルミナさんに似合います」
「…………。もういいですから、行きますよ」
何も返せなくなったエルミナは率先して店の出口へ向かってしまった。
外へ出ると、何やら賑やかな声が二人の耳に入る。
「何の騒ぎでしょうか」
「あれ……じゃないですか」
エルミナの視線の先には円錐状の巨大な建物。
中の人間たちの声援が幾重にも重なり、まるで地響きのような音が場外の空気までも揺らしている。
「決闘場か……」
想次郎はミセリから聞いた決闘場の話を思い返す。
「どんな感じなんだろう」
「出てみれば良いではないですか。魔物狩りよりも稼げるかもしれないですよ?」
「冗談!」
出場に興味があったわけではない想次郎は慌てて手を振る。
「でもせっかくですから建物の近くまで行ってみましょう」
街の人間から決闘場と呼ばれる建物の正式名称は〝レイヴトラオム闘技場〟。
以前街の反対側まで買い物に出た際に当然視界には入っていたが、二人が改めて意識して見てみるとかなり迫力のある建物だった。建物は相当年季が入っているらしく、砂色の外壁は至る所が欠けてしまっているが、それでもここまで巨大だとそれだけで見応えがあるものであった。
入口と見られる場所には人集りができており、この街のどの場所よりも活気があった。
「観戦は簡単にはできなさそうですね」
入口に並ぶ明らかに観戦客だと思われる装いの人々は中へ入る際、入り口付近の受付に何かを見せている。恐らく会員証か何かだろうと想次郎は予想した。
入口の両側には短剣を携えた警吏らしき人間が睨みを利かせて立っている。軽い気持ちで近寄らない方が良いだろうと想次郎は結論付けた。
「別にわたしは興味ないですから」
「ですよね……。まあ、僕も……実は見るだけでもちょっと怖いし……」
死人が出ることもあるというミセリの言葉を思い返し、想次郎は苦笑いする。
「では帰りましょうか」
そう言って踵を返した時である。想次郎の目の前に一人の男が立っていた。
かなり整った服装をしており、この街の住人たちと相対的に見て、位の高い職に就いている人間であろうことは想次郎にも予想できた。
「おや、少年。ちょっと良いかな?」
男は徐に話し掛ける。エルミナは例によって想次郎の後ろに隠れ、目立たないように気配を薄くしていた。
「もし時間があるなら、一つ、頼まれてくれないか?」
男はそう言って咥えている火の点いていない葉巻を上下に揺らした。
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【魔法】
水属性C2:メルクエイル
対象一体へ水属性中ダメージを与える。
生命活動に不可欠な水。流動性の象徴である水。放てばその衝撃は鋼鉄の鈍器に等しく、鋭い水流は研ぎ澄まされた刃に等しく、溺水は呼吸器内の粘液と混ざり合い、想像を絶する苦しみを生む。それを知る者は水魔法程凄惨なものはないと言う。
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