第45話
店の外で謎の男たちが怪しげな会話を交わしている頃、想次郎とエルミナは服屋でのウィンドウショッピングを楽しんでいた。
「楽しむ」とは言っても、想次郎が楽しんでいるのは店内に並ぶ品物ではなく、意中の相手とのデート気分であった。エルミナの方は純粋に取り取りの服を見て回ることを楽しんでいる様子だった。
表情は当然仮面に隠れてしまっているが、先程入店を躊躇っていた時とは打って変わり、店内を進む足取りは軽やかで、仮面越しにでも目の輝きがわかりそうな程であった。
「エルミナさん。服がお好きなんですね」
すると、エルミナはたった今姿見鏡の前にかざしていた服を素早く棚に戻した。それを見て想次郎は、また余計なことを言ってしまったと反省する。
「い、いえ、別に……。ただ、生前の記憶が徐々に戻りつつあるのですが、わたしは……と言いますか、わたしのいたあの村自体があまり裕福な集落ではなかったもので……」
そして自身が今着ている黒いドレスを再確認するように、再び姿見鏡の前に立った。
「こんな綺麗な服、着ること自体が生まれて初めてでした。だから実はとても新鮮で……」
想次郎はエルミナが初めてこのドレスを着た時の、終始顰め面にも関わらず、上がったテンションが所作に滲み出てしまっていた彼女の様子を思い返していた。
「生まれてからと言いますか……、死んでから着たんですけどね……」
(え、エルミナさん……。ちょいちょい自虐ネタ挟むなぁ……)
冗談と捉えて良いのか真剣に捉えて良いのかわからない想次郎は、上手い切り返しが見当たらず、苦笑いでごまかす。
「おやおや! お坊ちゃま。またいらしてくれたのですね!」
想次郎の存在に気付いた店主が、端正に整えられた髭をひと撫でし、満面の笑みで二人の元へ近づいて来た。
エルミナはあからさまに嫌そうに後退り、想次郎の後ろへ回った。
「まあ! お坊ちゃまのお姉様ですか! このあいだご購入頂いた服、よくお似合いで! 早速お召しになられたようで、嬉しゅうございます!」
「ええ、その節はどうも……。とても良い買い物ができました」
エルミナが警戒して一言も発しなくなってしまったので、想次郎が代わりに礼を言いながら頭を下げる。「お姉様」という言葉の方は、本当のことを話すのが面倒なので特に訂正しないでおいた。
「いえいえ! で? 今日は何をお探しで?」
「えっと……、今日はちょっと見に来ただけですので……」
背後にいるエルミナが「早く話を切り上げろ」と言わんばかりに、店主に見えないように想次郎の肩甲骨辺りへ爪を食い込ませ始めたので、想次郎は慌ててそう告げる。
「どうぞどうぞ! お好きなだけ見て行ってくださいな。気に入ったものが見つかったら是非お声掛けを!」
そう言って店主は奥へ戻って行った。想次郎はひとまず安堵する。
「別にこのくらい大丈夫ですよ……いてて……」
想次郎は抓まれていた背中をさすりながら言う。
「…………」
エルミナはそっぽを向くと、想次郎に構わず一人別の商品棚の方へとすたすた進んで行ってしまう。想次郎は複雑そうな表情で二、三度頭を掻くと、足早に彼女の後を追った。
そして、想次郎は店内の一画で立ち止まるエルミナを見つけ、声を掛ける。先程のことがあった手前、極力声量は落として、店主に聞かれないようにする配慮を忘れずに。
「エルミナさん。何か気になるのありました?」
「い、いえ」
想次郎の声に気付いたエルミナは、やはりばつが悪そうに視線を逸らしてしまう。
相変わらずのエルミナの反応に軽く嘆息し、想次郎は彼女が直前まで眺めていた商品棚を確認する。どうやらその一画は宝飾品の類が並べられたコーナーであるようだった。
店全体から見た占有率で言えば、やはりあくまでも服がメインのようであったが、髪飾りやイヤリングなどの煌びやかな宝飾品の数々は、この小さな一画で十分な存在感を放っている。
「あ……」
未だそっぽを向いてしまっているエルミナに代わり想次郎が棚を眺めていると、数々の中で一際精彩を放つ一品に目が留まる。
------------------フレーバーテキスト紹介------------------
【魔法】
火属性C2:ウォルカ
対象一体へ火属性中ダメージを与える。
炎とは、古来より人々と親しくありながら、大気、地表、水、全ての物質に影響を与える特別な力である。何かを生み出す始まりの力であり、消滅を招く終焉の力でもある。だからこそ、決して扱いを誤ってはいけない。
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