第42話
「あんまり驚かないのね……」
ミセリは想次郎の期待外れな反応に肩を落とし、泣き出しそうな表情のまま俯く。
「決闘場に出場する人でも使える人、あんまりいないんだから…………魔法……」
いよいよミセリの目元には涙が溜まり始めた。そこでようやく想次郎は我に返る。
「え? あぁ……えっと……わ、わぁっ! すごい! その歳で魔法を使えるだなんて! 驚き過ぎて声が出なかったよ!」
「でっしょぉー!!」
ミセリは一瞬で元気を取り戻し、想次郎の背中をばんばんと叩く。
「いたい! いたいって! ね、ねぇ。ところでミセリはその魔法、どうやって会得したの?」
想次郎はついでにふと気になった事柄を質問することにする。ゲームプレイヤーであった頃の想次郎は予めある程度の魔法を会得していたが、この世界の住人はどのように魔法を身に付けるのか、それが純粋に疑問だった。
「やっぱり魔導書とか?」
「うーん……。それは一般的だけど、わたしはママがなかなか買ってくれないからなぁー。結構高いんだよ? あ! もしかして御曹司君、買ってくれるの!?」
「だから御曹司じゃないって」
「ああそうだったね! メガネ君はメガネ君だもんね!」
「それも違うけど……、まぁいっか。じゃあ、君は魔導書もなしにどうやって?」
「気合よ!」
全く参考になりそうもない回答が返って来る。一瞬いつもの冗談かと思った想次郎だが、ミセリは腰に手を当て、仁王立ちのまま得意顔だ。どうやら本気らしい。
「えっと、もうちょっと詳しく……」
「うーん……。説明が難しいんだけど、とにかくイメージトレーニングだったかなぁ……。毎日毎日……、ほんとに嫌になるくらい……。あとは気合よっ!」
「そ、そうなんだ……」
恐らく真に重要なのは「イメージトレーニング」の方なのだろうと想次郎は勝手に結論付けた。ただ何事にも気合が必要だということはあながち間違いではないのだろうとも想次郎は思った。そしてこと自身においては、今一番必要なものは「勇気」や「気力」といった、精神面での強さの気がしていた。
「あとはわたしも魔法の〝杖〟があれば今以上に強い魔法が使えるようになるんだけど、わたしのお小遣いじゃぁ手が出ないんだよね。しばらく店の手伝いをすればママが魔術師用の杖を買ってくれる約束なんだけど」
確かにゲーム内の装備として〝剣〟の他に魔法攻撃特化の〝杖〟があることを想次郎は知っていた。しかし序盤のこの地から動かなかった想次郎はその杖を手に入れたことはおろか、見たことすらなかった。
「わたしの日当っていくら換算なんだろ……。あーあ、こんなことならママに内緒でこっそり決闘場に出てやろうかしら」
「で、でも、危ないんじゃない?」
「まーね。でも今のわたしならそこそこイケる気がするのよ」
ミセリはぐっと握った拳を見つめ、何の根拠もなしに息巻いていた。
「へぇ……結構稼げるのかな……?」
想次郎はここ数日分の自信の稼ぎを思いながら呟く。
「ま、どーでも良いけど。キミは間違っても決闘場への参加はやめておいたほうが良いわよ。一攫千金を夢見て来る人が多いけど、宿泊中に怪我して帰ってこられるのも迷惑だし。まあ、死んじゃうぶんには、キミは前金で支払って貰ってるからいーんだけどさー」
「と、当然だよ」
その言葉は紛れもない想次郎の本心だった。いかに自身の
この街で男二人に金を奪われた時のことは、想次郎にとっては今でも、思い返すだけで心拍数が上がってしまうくらいにはトラウマになっている。
「参考になったよ。ありがとう。じゃあ、僕はこれで……」
「何言ってんのよ。まだまだこれからよ!」
想次郎が踵を返すと、すかさずミセリが袖を掴んで呼び止める。
「えぇ……」
「せっかくわたしの修行の成果を披露できるんだら! 存分に楽しんでよね!」
「いや、楽しんでるのは君だけじゃ……」
「そうなの……?」
想次郎が拒否する構えを示すと、ミセリは瞬時に落ち込む。
「楽しみだなぁ! 魔法、もっと見たいなぉ!」
「でっしょぉ! じゃあ次行くわね! メガネ君が出掛けてる時に宿で仮面のお姉さん見かけたから『魔法見て』って声掛けたんだけど、無視されちゃってちょっと落ち込んでたんだよねー。ってか、わたし何かあのお姉さんに避けられて気がするー」
「避けられてるのは多分その通りだろうけど、そもそもよく声掛けようと思ったね……」
想次郎は呆れながらもミセリの勇気に少し感心してしまった。
いかにエルミナLOVEな想次郎であっても、初対面であのような仮面姿の出で立ちの相手に気軽に声を掛けようと思わない。
「さぁ! 次は水の魔法よ!」
「わ、わぁー。楽しみだなぁー。すごいんだろうなぁー」
以前に〝
「僕、疲れてるんだけどな……」
------------------フレーバーテキスト紹介------------------
【魔法】
風属性C1:ウェント
対象一体へ風属性弱ダメージを与える。
鋭く走る気流は鋼鉄の剣にも勝る刃となる。自然界で発生する大規模な風害は人よりも遥か強大なモノによる息吹に例えられたと言う。人々は神がもたらす受難としてそれを受け入れる他ない。
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