第22話
武器屋の入口を潜ると人相の悪いスキンヘッドの店主と目が合い、早くも心が折れそうになる想次郎。
しかしここで尻込みするわけにはいかなかった。いかに臆病者の想次郎であっても、自身の命が掛かっているとなるとなりふり構っていられない。
意を決して店内に踏み込み、陳列されている武器や防具の数々を見て回る。安全面を考えれば頑強そうな防具を購入すべきなのだろうが、重そうな防具を身に纏ったままゲームのように俊敏に戦える自信は想次郎にはなかった。
念の為、〝
そうして色々と見て回っているうちに武器のコーナーでとある剣に目が留まる。
〝隼の双剣〟。敏捷性依存で攻撃力の上がる装備武器だ。これなら想次郎のステータスにぴったりである。
見た目は細身片刃の剣で、長さ的には剣というよりかは長めのナイフと言った方が正しかった。柄の部分も細めに作られており、小柄な想次郎でも持ち易そうだ。刀身はやや青み掛かっており、美しかった。しかし「双剣」と銘打つだけあって同じ形状の剣が左右用で二本ある。
「二本も……できるかな……」
ゲーム内ではキャラクターが問題なく使用してくれるだろうが、現実となるとそうは容易にいかなそうだと想次郎は考える。利き腕の右ならまだしも、左で握った剣が上手く扱える自信がなかった。
それにまだまだ購入資金があるとはいえ、極力無駄な失費は抑えたい。
「片方だけにして半額とかにならないかなぁ……」
強面の店主の方をちらりと見て、尋ねる前から想次郎は「無理だ」と諦めた。
そしてしばし悩んだ末――、
「まいど!」
結局、想次郎はその剣を購入した。
店主は想次郎が買うとわかると途端に人が良くなり、満面の笑みで想次郎を送り出した。こんなことならばダメもとでも一度交渉してみるべきだったと、後になって後悔する想次郎であった。
想次郎は買ったばかりの双剣を両の腰に装備すると、その足で街の外へと向かった。
バンシーIが言うには、狩った魔物の一部を売却することにより資金を得られるというが、何を獲物にして良いか、想次郎には想像もできない。
一応この世界に来てから魔法を使用しグールを倒した経験のある想次郎だが、それこそ、グールを狩ったところで果たしてどの部位にどんな値が付くのか、皆目見当も付かなかった。と言うよりも、想次郎にはグールの残骸に触れられる自信がなかった。
「さて、どうするか……」
独り言を溢しながらも道を行く。現在は試しに想次郎が来た墓場の方とは反対の方角へ進んでいる。想次郎の記憶が正しければ、この道は次の街へ進む道だ。
「次の街」という表現は至極ゲーム的なものだ。想次郎の今いるこの地は、彼にとって最早現実なのだから。
進む程、木々が道を多い始め、生えている草の背もどんどんと高くなっていき、次第に視界が悪くなる。
想次郎は最初の街からろくにストーリーを進めていない為、この先に何があるのかは詳しくわからなかった。
なのであまり泊まっている宿のある街エアストを離れるのは気が引け、想次郎は頃合いを見て来た道をそのまま戻るようにする。
「も、モンスターって、案外出会わないものなんだな……」
ゲーム内ならば、これだけの時間歩けば少なくとも十数回はエンカウントしている筈だが、リアルではそうもいかないようだった。加えて装備によるパッシブスキル〝隠密〟が常時発動していることを想次郎はすっかり失念している。
内心何事もないことを安堵しながらも、啖呵を切って出て来てしまった手前、報酬ゼロで戻っては宿に置いてきた彼女に示しがつかないと、相反する二つの想いが想次郎の中でせめぎ合う。
来た道を往復し、エアストが見え始めた頃である。傍らの茂みでかさかさと草が擦れるような音が想次郎の耳に入った。
立ち止まり、ぎこちない動作で音のした方を確認する想次郎。
「ぐるるるる……」
口内で唾液をかき混ぜるような唸り声と共に四足歩行の獣型モンスターが想次郎の眼前に姿を現す。
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【アイテム】
Cex:賢者の裏指南書
C3までの魔法の中で指定した魔法を一つ会得できる。
伝説上の魔書とされ、「書」と名のついているものの、それは俗称の一つであり、その正体は伝わる地域によって様々である。本質やその外形は不明確で、霊薬〝エリクサー〟や、万能の魔術触媒〝賢者の石〟、果ては、神から授かりし魔法の真理である〝クエリオの鍵〟とも同一視される。
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