第19話

「それはそうとキミさぁ……お世辞にも強そうには見えないし、もしかして……」


 ミセリは徐に想次郎の耳元へ顔を近付ける。


「あわわわわ」


 耳に少女の息が掛かり、あからさまに狼狽える想次郎。そんな想次郎の様子に冷ややかな表情を向けるバンシーI。


「どこかの貴族の御曹司君? お忍びで旅行中とか? わざわざそんな目立たなそうな色の服装までしちゃってぇ」


「いや……僕らは別にそういうわけじゃ……」


 否定こそするが、想次郎自身も自分の現状をあまりよくわかっていないだけに説明に困り、口籠ってしまう。


「まあ、良いわ。はぁ……。せっかく気前の良いお客さんっていうからどんな実力者かと思いきや、女の子と見間違えそうな程可愛いらしい子だったからさ」


「どういうこと?」


 自分よりも年下な見た目の少女にまで女の子扱いされたことに少しムッとしながらも、理由を問う想次郎。


 そんな想次郎に対し「本当にわからないの?」とでも言いたげに目を丸くする少女。


「この街ってさ、どう? つまらないとこでしょ?」


「えぇっと……。僕はここに来たばかりだから……」


 そう返しながらも、殺風景な街並みでいまいち活気に欠けるのは昨日の買い物時に見て回っただけでも想次郎には十二分に理解できるし、おまけに、ならず者に絡まれもした。お世辞にも愉快な街とはいえないことは想次郎も身を以て体感していた。


「こんな街に余所からわざわざ人が来るとするなら、決闘場よ」


「決闘場?」


「街の中心に丸くて大きな建物があったでしょ? あれ」


「ああ」


 想次郎もその建物に関してはこの世界に入り込む前から知っていた。ゲーム内では人間のNPCキャラクターと一対一で対戦し、勝つと賞金が得られるというミニイベントがある施設だ。


 想次郎がゲーム購入当初に一度だけチャレンジし、それきり手を付けていないイベントだけに、あまり詳細を知っているわけではなかった。


「やっぱり人同士で戦うんだ」


「ええ、〝決闘〟なんだから当然じゃない」


「死人が出たりもするの?」


「たまにね」


 凄惨な内容を当然のことにようにあっけらかんとした表情で話すミセリ。


「お金を持ってるってことはイコールこの街では〝戦闘の腕に覚えがある〟ってことなのよ。この街で大金を稼ぐっていったらそれくらいしかないし。まあ、決闘に参加しなくても決闘場の観戦客としてお金を掛けるって手もあるけど、安定して収入を得られるわけじゃないしね。決闘場での実力者は国直属の正式軍にスカウトされるって噂よ」


「君は〝強い人〟を探してるの?」


「もちろん! わたしは一応悪魔討伐の精鋭部隊志望なんだから! ぜったいに強くなっていつかこんな退屈な街出てやる!」


 ミセリは終始調子の良さそうな言動であったが、それはあくまでも彼女の性格によるもので、たった今口にした言葉が冗談ではないことは、その力強い瞳が物語っていた。


「もっとも、ここを治めてるカイアス公国は悪魔を〝滅ぼす〟っていうよりは、ちょっと別の考えみたいなんだけどね」


「へ、へぇ……」


 いまいち話について行けず、気の抜けたような返事をする。


 ろくにゲームのストーリーを進めてこなかった想次郎にとって、この街以外についての情報など知る由もなかった。







------------------フレーバーテキスト紹介------------------

【貨幣】

フィグ銅貨

カイアス公国をはじめ世界を牛耳る3つの大国間で共通で使用され、貨幣の中で最も多く流通している銅貨。貨幣の中では一番偽造し易い為、極刑の罪にも関わらず未だに偽造に手を出す者もいる。フィグ銅貨には1F、10F、100F、1000Fの四種類が存在するが、コイン表面に描かれるモチーフは共通しており、天地全てを統べることを意味する五芒星が二つ重なった図形〝ダブルペンタグラム〟。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る