2月14日と364日
空野 雫
第1話 2月14日
今日はバレンタインだと言うのに、僕達は男同士で夜中まで酒を飲んでいた。
「じゃあな」
「来年こそは彼女作ろうぜ!」
もう聞き飽きた友達の宣言聞き、僕は一足先に店を出た。
少し火照った顔を夜風が冷やす。街中は手を繋いだカップルなどがチラホラと目立つ。一人で歩いているのは僕くらいだ。
僕は街頭もない暗い道に進路を変えた。
そこにはいつも通り誰一人としていなかった。
光が消え、音が消え、色が消え、全てが黒になる。
幽霊でも出てくるんじゃないかと思うような雰囲気だ。
ガサッ……
何かを擦った様な音。
僕は後ろからした音に反射的に振り返った。しかし、後ろには人影はないようだった。
僕は猫でも通ったのだろうと思うことにして、歩く速さをあげた。
ガサッ……
また同じような音がした。
やはり、人の気配はなかったので、僕はスマホの光で照らしてみることにした。
スマホの光が、暗闇を切り裂くように辺りを照らした。
しかし、何も変なところはなく、動物などもいない様子だった。
僕はため息をひとつして、歩く速さを戻して家に帰った。
家に帰って、手を洗って、服を脱いだ。
既に酔いは吹っ飛んでいた。僕はベッドに倒れるようにして寝転む。
そして、スマホのアルバムを開いた。
今日君が会いに来たら、もしかしたら君もまだ同じ気持ちなのかなって勘違いしてしまうだろ?
だから、今日だけは来ないで欲しかった。
一生忘れられなくなるだろ?
僕は数年前に撮ったツーショットの写真を閉じた。
もう彼女はこの世にいないんだ。
さっきのが幽霊だったのではないかと考えてしまっている僕はまだ酔っているのかもしれない。
僕は、枕に顔を埋めた。
「あー、会いたいなぁ……」
2月14日と364日 空野 雫 @soraama1950
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