うなじ
中村かろん
うなじ
あまりにも美しいうなじだった。
後れ毛がなく白い襟足、こういう人もいるのか...しばらく見とれていた。
席があいていれば、いつも2階に乗ることにしていた。そのほうが明るいし、見晴らしがいい。ときに、揺りかごのような動きでコックリコックリ、睡魔がやってくる。
Londonでは赤いDouble-Decker(二階建てバス)がおなじみだが、ここでは明るめと暗めのくすんだグリーンのツートーン・カラーのバスだった。
その頃は、これってお世辞にもきれいとはいえない色だな、と思っていたのだが、あの渋い色合いはレンガ色の景色と曇り空にあっていた。
その日は、City Centre(イギリス、アイルランドの英語ではセンターはこのスペル)まで買い物にいくので、家の近くから78Aのバスに乗った。午前10時頃とあって、中は比較的すいている。階段を登り、上の階に。
後部、左の窓側の席があいていた。
前の席には少女というより、少し大人に近い年齢の女の子がふたり、談笑している。通路側に座っている女の子が話をするために、ときどき友人の方を向く。
その端正な横顔に笑顔が似合っていた。
きれいにそろった髪は、ボブというより昔ながらのおかっぱ頭。柔らかく、たっぷりとしてほとんど黒に近い、まっすぐな髪。ストレートにしているのか、それとも元々なのだろうか、そんなことを考えていた。
そのおかっぱの下に白い首がのびている。白人だから色は白いのだが、襟足にはむだな毛がなかった。こんなに肌のきれいな人もいるんだ、なかば感心した。
バスが角をまがり、太陽が彼女の首筋にあたった。
薄い、金色の少し長めの産毛が光に反射した。それまでまったく見えていなかったのだが、襟足をびっしりと産毛がおおっている。
黒髪なのに必要のないところはめだたない色。再び驚いた。
田辺聖子さんのエッセイ集「女の口髭」にイタリアで、鼻の下に髭をはやした女の人を見た話が出てくる。口髭をたくわえたままの女の人を見るたびに、この話を思い出した。
眉毛がつながっている女性もよく見かけたが、だれも気にしないらしく美人が多かった。
1990年代 Dublin Ireland での話
うなじ 中村かろん @kay0719
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