第16話 兆候

あの決闘から早、半年。

アレンとクリスは、犬猿の仲となっていた。

ただ、アレンに関してクリスは3メートル離れれば会話が出来るまでに成長した。


「アレン様、鬱陶しいので出て行ってもらえませんか?ソル様の治療に集中出来ませんので」

「別にいいじゃないか。いちよ、僕は前世で医者だった訳だし、勉強させてもらってるだけだ」


はぁっとため息を吐くクリス。

不機嫌な顔をするけど治療を学ぼうとするアレンには、少しだけ関心をする。

でも嫌いだけど。


「今は、ミレイユさんも外してます。男女が部屋で2人っきりって不味くないですか?変な噂立てられたら嫌なんですけど」

「君と恋仲?冗談じゃない。元同郷だから親近感はあるけど恋人とか婚約者とかあり得ないんだけど」

「うっざ、私だってあなたとなんか真っ平ごめんですね。あなたと婚約する方がとても可哀想に思えて来ますね」

「そうかな?こう見えて僕はモテるからね、顔的にも立場的にも」

「自意識過剰ですか?すごくキモいんですけど」


毎日のように2人は、こうして罵り合ってるのであった。


「そう言えば、最近、魔物の出没が増えたってリコ姉さんと先生が言ってたよ」

「唐突に何を言い出すんですか?あたまおかしいんじゃないですか?」

「酷い言われようだな。ちょっと傷付いたかも」

「ならそのままのたれ死んで下さい」


余りの言われようにちょっと悲しくなってくるアレン。だが、実際に魔物の出没が増えたのはクリスも感じていた。まだ対処出来ているので問題はないと思いたい。


実際に魔物と対峙してある程度なら師匠、リコ、アレンにステラ、ミレイユにライムとクリスでなんとか出来るが数が多くなればその分、厳しくなってくるとは思っている。


「嫌な予感がするんだ。早いところ彼が目を覚まして戦えるまでの体力が戻ってくれれば僕らだけで強い魔物も相手に出来る」

「彼はそれほどに強いんですか?」

「ああ、魔法なしで僕とやり合えるだけのことはあるね。引き分けたけど。まぁ〜実際、全力でやって僕と君が引き分けた時より彼と引き分けた時の方がすごかったよ」


アレンと身体能力オンリーで引き分けた実力。クリスは、未だに眠る彼を見てに思えた。

クリスは、彼が蒼亮だと思っている。それが事実なら対人でと思っているからである。


「おっと、そろそろ、僕は修行に戻るよ」

「やっと消え失せてくれるんですね。とても嬉しいです」


そう言って聖女と呼ばれるに相応しい満面の笑みで笑いかけてくる彼女に顔を引き攣らせるしか出来なかったアレンであった。



アレンが部屋を出て行くとクリスは、少年の手に触れて話しかける。


「先輩、早く起きて下さいよ。やっと、やっと会えたんですからたくさん話したいことがあるんです」


悲しげな顔でそう呟くクリス。

握った手から温かい温もりを感じる。

昔もよく手を握ったなと思いにふけていると握っていた手が強く握り返してくる。


「ひゃっ!」


思わず声を上げて手を離してしまった。

そして恐る恐る顔を覗き込むが、結局、手を握り返したこと以外、変わった様子はなかった。

さっきのは、一体なんだったのかと思う。


目を覚ます前兆なのかとも・・・・・・







それから数日、魔物の群れ、スタンピートが発生したという連絡が入った。

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