第29話 気品あふれる姉セイリュウ

「えっ…!?これが家なのか?」

「そうだよ!みんなもこんな家でしょ?」

「ビャッコ、これは…普通じゃないよ」


 メリザは正しくツッコんだ。

 それもそのはず、ビャッコの家は御殿のようだった。色は赤よりの茶色で、様々な動物の絵が描かれていた。


「すごい家だな…」


 ふと家の前を見るときれいな服を着た女の人が立っていた。


「もしかして、あれが…」

「お姉ちゃん!」

 ビャッコは出迎えたお姉さんの所へ走って行った。

 少し二人で話した後ユキトたちの元へ歩いて来た。


「何となくやってくる予感がしました。わたしはビャッコの姉のセイリュウです。ようこそ、ユキトさん、メリザさん」

「ビャッコに聞いたんですか?」

 ユキトが聞いた。


「いえ、わたしの知識魔法、フューチャーノーレッジで知っていました」

「知識魔法…ですか?」

「そうです。わたしの知識にある人の未来が見える、まあ、ざっとですが…」

「お姉ちゃんもユキトっちと同じく魔法を二つ使えるんだよ!」

「ビャッコ、話は後でもできます。とりあえず中に入りましょうか」


 赤と青半分ずつの色の着物のような服を着たセイリュウは家の中を案内した。


 ユキトたちは広い廊下を進んでいく。廊下をしばらく行くと客間として使うような部屋に出た。

 セイリュウは大きなテーブルの周りにユキトたちを座らせた。


「今日は用があって来たのですよね?」

「はい。実は、おれはここじゃない世界から来たんです」

「大体は知っています。この世界の人ではないということを」

「それで、元の世界に戻る手がかりとして古い本を集めることになりました。そのうちの一冊を手に入れたので、調べてほしいんです」


 ユキトは手に入れた前の書を懐から取り出した。


「分かりました。では、今日はここで泊まっていってください。調べるのに少し時間がかかりますから」

 そう言ってユキトから前の書を受け取った。


「もう少しお話ししましょう。お茶を持ってきますね」

 セイリュウは部屋の奥に行ってしまった。


「お姉ちゃんのお茶、おいしいんだよ!」

「そうか。昔から飲んでたのか」

「うん!旅をする前まではね。しばらく飲んでないから楽しみ!」

「どんな味なんだろう?気になる…」


 三人が待っていると、お茶を入れ終えたセイリュウが戻って来た。

 セイリュウはお茶が入った木のコップをそれぞれに配った。


「どうぞ」

『いただきます!』

 ユキトたちは声をそろえてお茶を飲んだ。


「美味しいです。それと、良い香りですね」

「ありがとうございます!わたしの自信作なんです」

「本当に美味しいです!後味がほんのり甘くて私の好きな味です」

 メリザはお茶を気に入ったようだ。


「この味この味!これ以上おいしいの飲んだことないよ!」

「ビャッコ、お二人に属性の話はしましたか?」

「属性って何だっけ?」


 セイリュウは額に手を当てて、やれやれという風にした。

「またですか…。何回か説明したのですけどね…。仕方がありません、わたしが二人に説明します」


 セイリュウは魔法には属性があると言う。火を意味する火(か)属性、水を意味する水(すい)属性、木を意味する木(もく)属性、金属を意味する金(きん)属性、土を意味する土(ど)属性の五つだ。

 ほとんどの魔法はその属性を持つが、ユキトやビャッコのように変わった魔法を使う人は属性を複数持つ。


 例えば風魔法ならば火(か)水(すい)属性の二つを持つ。それは、水を火で温めると水蒸気が発生するというところからきている。

 ビャッコの雷雪魔法は二つの魔法が合わさったような名前なので複雑だが、雷の方は金属に電気が流れ、のちに火を起こすということで火(か)金(きん)属性になる。雪の方は水が形を変えたものということで単純に水(すい)属性になる。

 つまり、ビャッコは火(か)水(すい)金(きん)属性の三属性を持つということになる。


「ユキトさんは確か身体強化魔法と召喚魔法を使うんでしたね。どちらも五つの属性全てを含んでいますよ」

「全属性を持ってると何か良いことがあるんですか?」

「ええ、あります。魔法は組み合わせることでより強い力を得られますが、相性が悪いと逆に弱くなってしまうのです。ユキトさんの身体強化魔法は全属性ですので、どの属性の魔法とも相性が良いということになります」


 さらにセイリュウは相性が良い属性と悪い属性のことも話した。


 木属性は火属性、火属性は土属性、土属性は金属性、金属性は水属性、水属性は木属性に対して魔法の相性が良い。もちろん火と火など、同じ属性同士も相性は良いという。

 一方、土属性は木属性、水属性は土属性、火属性は水属性、金属性は火属性、木属性は金属性に対して相性が悪い。


 しかしたとえ属性の相性が悪くても、相手より魔力が高ければ勝(まさ)ることもあると言う。


「この先、さらに強い相手と戦う時などに属性を理解していれば有利なこともあると思います」

「なるほど…属性があったんですか。おれの身体強化魔法は誰にかけても相性が良いんですね」

「ユキトさんがより修行を重ねることで誰でも強くすることができるかもしれません。ですが、強すぎる力は身を滅ぼしかねません…。気を付けてその力を使ってください」

「はい、気を付けます」


 セイリュウはいすから立つと何かを思い出したように手を叩いた。

「そうです、ビャッコ。あなたの部屋を二人に見せてあげたらどうですか?二人も見たいと思いますよ!」

「うん、いいよ!行こうユキトっち、メリちゃん!」


 前の書を調べるというセイリュウをおいて、案内のビャッコを先頭にユキトたちは再び広い廊下を進む。


「お姉ちゃんすごいでしょ!昔からお姉ちゃんにはかなわなかったよ」

「そう言えば、ビャッコの親って…」


 ビャッコは一瞬下を向いたがすぐに顔を上げた。


「小さい頃に死んじゃったから全然覚えてない」

「そうか…。でもビャッコたち四つ子の親はもっとすごそうだな」


 ユキトたちが進んでいるとビャッコが突然歩みを緩めた。どうやらビャッコの部屋に着いたようだ。

 部屋の扉の所にはひもでつながった青白い虎の人形がぶら下がっていた。


「ここがあたしの部屋だよ」


 ビャッコは自分の部屋の扉を開けた。

 部屋の中は全体的に青っぽかった。部屋の隅には山積みの本が適当に置かれていた。その他にテーブル、いす、ベッドが置かれていた。


「ビャッコらしい部屋だな」

「いいでしょ!」

「それにしてもビャッコのお姉さん、すごそうな人だったな」

「そうね。優しそうな人だった」

「うん。昔から優しかったよ!」


 そこからビャッコは昔のことを話し出した。

 今から十六年前、ビャッコ七歳の頃、同じく七歳のセイリュウと山の奥にある泉の水を汲(く)みに行くことになった。


「ビャッコ、準備はできましたか?」

「待ってお姉ちゃん。まだちょっと…」

 ビャッコは特殊な服の着方が分からず苦戦していた。


「もう、仕方ないなぁ…」

 セイリュウはビャッコが服を着るのを手伝った。


「えへへ…ありがと、お姉ちゃん!」

「今度から着やすい服をあげるからそれを着てください」

「うん、わかった!」


 セイリュウの手伝いでどうにか着ることができた。

「はい、できましたよ!」


 やっと準備ができたビャッコはセイリュウと山に出かけた。

 始めはなだらかな道だったが、徐々に険しくなってきた。セイリュウはビャッコより少し背が高くまだ元気があるが、ビャッコは少しばてている。


「少し休みましょうか」

「や…やったー…!」


 ビャッコは切り株に座り、持ってきた飲み物をがぶ飲みした。


「ビャッコ、そんなに飲んだら帰り困りますよ」

「うん、あいおーうー!」

 ビャッコは飲みながらしゃべったので何を言ったのか分からない。


「大丈夫じゃないです!いつもそうなんだから…」

 セイリュウはいつものように呆(あき)れていた。


 休憩しながら山の奥に進んで行く。

 すると、川にたどり着いた。そこには橋がかかっていた。


「ここ行くの?」

「そう。ここを通らないと泉へは行けません」


 ビャッコは橋を渡るのが少し怖いみたいだ。セイリュウは普通に渡るが、ビャッコは橋のロープに掴まりながら一歩ずつしか進むことができない。


「うぅ…こ、怖い…。ま、待ってお姉ちゃん…!」

「ゆっくりずつでいいから来てください」


 セイリュウがビャッコに気遣いながら橋の真ん中まで来た。

 ふと、後ろを振り返るとビャッコの姿がなかった。


「ビャッコ…?ビャッコ!」


 ビャッコは川に落ちてしまったようだ。


 体が沈む…。水面の明るさだけがやけに目立つ。あたし死ぬのかな…。お姉ちゃん、あたしだめな子だね。お姉ちゃんに頼りすぎなとこがあって、迷惑かけちゃったことが何回もあったから。

 お姉ちゃんともっと一緒にいたかったな…。まだやりたいことたくさんあるのに…。

 もがいてももがいても上に上がれない。


 誰でもいいから来て…。


 ビャッコが意識を失いそうになった時、水面の光が動いた。大きな影が近付いてくるのが分かった。

 それは空想上の生き物、龍の姿をしていた。緑色の体でお腹側が白かった。その龍の両手にビャッコは包まれた。

 安心したのかビャッコは気を失った。気を失う直前ビャッコの頭に言葉が響いた。


(ビャッコ、あなたは絶対に死なせません…!)


 いつの間にかビャッコは川から出て地面に仰向けで寝ていた。温かい手が触れて水を吐き出した。

 ゆっくり目を開けると姉セイリュウの姿があった。


「お…お姉ちゃん。ごめんね…いつも…」

「言ったでしょ。絶対死なせないって」

「やっぱり、さっきの。お姉ちゃんの声だったんだね」

「テレパシーです。頭に響いたでしょ?」

「お姉ちゃんの龍の姿、かっこよかったね!」


 セイリュウはビャッコに優しく微笑みかけた。


「また今度見せてあげますよ」

「うん…!」


 少し時間が経つとビャッコは完全復活した。

 立ち上がるとセイリュウが静かに佇(たたず)んでいた。


「どうしたのお姉ちゃん?」

「見てください、ビャッコ」


 セイリュウが促しビャッコは前を見てみた。

 すると、そこには澄んだ水が湧き出る泉があった。


「うわー!きれい!」

「さあ、早くこの水を持って帰りましょう」

「うん!」


「――ってことがあったんだよ。すごいでしょ!」

「ああ。それと二つ目の魔法は龍だったんだな。さすがビャッコのお姉さんだな」

「そうだよ。龍に変身できるんだよ」

「かっこいいな」

「うん!」


 ビャッコはその後も小さい頃の話を続けるのだった。

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